even if
『じゃあ、またね』


渋谷くんはハイツまで送ってくれた。
駅から、うちのハイツがもっと遠かったからよかったのに、と思う。



帰りの電車の中で、私は渋谷くんの肩に頭を乗せて、指をからませていた。
渋谷くんの手はいつもひんやりしている。
暑い夏の夜、シーツのひんやりとした部分を探しだした時の気持ちよさに似てる。


『夏休み最後に、最高の思い出ができた』

渋谷くんが、私の頭にことん、と頭を乗せてそう言った。

『夏休み、どこも行かなかったの?』

『うん。ずっと勉強してた。だから、焼けてないだろ、俺。たまに、クラスのやつが押し掛けて泊まって帰ったりしたけど』

あいつら、いつも俺んちをめちゃくちゃにしやがる。
渋谷くんは、笑いながら言った。

『あ、言っとくけど、来てるの全員男だからな』

『聞いてないし』

ふざけた口調でそう言いながら、ホッとしてる私がいる。


私たちの住む町の路線電車に乗り換えたときに、私は渋谷くんにもたれるのをやめて、からませていた指もほどいた。

真っ暗な外の景色の中に、見慣れた建物が見えた時に、夢から覚めた気がしてさみしくなる。




『送ってくれてありがとう。明後日、また学校で』


私たちは、最後にもう一度、キスをして別れた。



『じゃあ、またね』



こうして、私と渋谷くんの夏休みは終わった。


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