even if
そんな日に限って、渋谷くんはなかなか現れなかった。

いや、保健室に来ないできちんと授業を受けているのはいいことなんだ。

そう思っても、ここに来てから一ヶ月間、ずっと長い前髪の渋谷くんしか見てないし、その少しうっとおしそうな髪型がよく似合ってもいたから、短くなった髪型が想像できなくて、早く見たいなぁ、と思ってしまった。

私は基本的には、保健室にずっといる。
怪我や体調不良の生徒がいつ訪ねてくるかわからないし、そんな生徒が来た時には、どんなときも必ず私が迎えてあげたい、と思っていたから。

だから、渋谷くんが来ない以上、グラウンドで体育をしている男子がいたら、そこに渋谷くんがいないか目をこらすくらいしか出来なかった。

『いないなぁ…』

そう呟いて、ハッとする。

いやいや、そんなことどうでもいいから、仕事しろよ、私。

気持ちを切り替えて、保健指導のための資料をパソコンで作り始めたのに、どうしてもドアが気になってしまう。

今にも、渋谷くんがノックをせずに、入ってくる気がして。

『あぁぁぁ、もう嫌だ!!』

これはもしかしたら、渋谷くんの計算なのかもしれない。

私をからかう時のいたずらっぽい笑顔を思い出して、頭をかきむしった。



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