狐の恋は波乱塗れ
始まりの音
土埃のまう道

人々の活気のある声。

色とりどりの店に綺麗な簪や飴細工に小物、着物。
沢山の色々な物が売られている。
10歳の頃からずっと山奥で暮らしていたため雪儷には見たことの無いものばかりだった。
雪儷は興味深々に…と言いたいところだが
違う

もちろん、見たことのない珍しい物に興味は湧くがそれどころではない。
目の前の長い黒髪を揺らしながら馬に跨り前を歩く男。
そう、千景だ。
こいつが気にくわない。

くそ、なんでこんなことに…

雪儷は唇を噛んだ。

そう、あの時ーーー…






***


『さあ、どうする?』

千景は余裕の笑みを浮かべながら
雪儷に答えを迫った。

千景の手の中にある簪がチリンと音をたてた。

この男、私が承諾する他ないと確信してるんだわ…

雪儷は千景の口元の笑みを見てそう思った。

確かに承諾するしか道はない。
雪儷はぎゅっと拳を握った。

他に…他の道はないの?

必死に考えを巡らせるが何も出てこない。

こんな時に銀狐がいれば!
あの口の悪い銀狐なら、この場を何となくと切り抜けられただろう…
だが、その当人は今この場にはいない。
気配からするに結界の方にいるため、きっと結界が何故やぶられたのかを調べているのだろう。

私は、私はッ

「雪儷…落ち着くんだ。」

ぽんっ震える私の肩に手が置かれた。
そのぬくもりはすごく暖かく感じた。

「雪蓮…」

小さい声だけれど名前を呼ぶ。

「雪儷、焦るんじゃない。深く考えすぎるんじゃない。
落ち着いて考えるんだ。
お前は、お前が正しいと思った答えを出せばいい…。
僕たちはそれに従う。」

雪蓮が優しく笑う。


「雪蓮…ありがとう…」

こくんと頷きながら答えた。
涙が出そうだった。
ああ、やはり家族は暖かい。
だから、私は無くしたくないんだ。
雪蓮も銀狐も…
もしも、ここで戦えばその二人も巻き込んで怪我をさせるかもしれない。無くしてしまうかもしれない。

なら私は…




「分かった。貴方に従うわ。」






私は戦う…

全ては守るために





***


そう思ってついてきたはいいけど…

何故?私ひとりだけなの?

てっきり、銀狐総出で従え!なんて言うかと思ったのに…
まあ、一人だけの方が私にとっては好都合なんだけど!
ぼーっと首を傾げていると

「ここだ。」

いきなり、馬が止まった。

「うわっ」
急に止まったため
思わず落ちそうになる。

なんとか、タズナを引っ張り転落を避けた。

危なかった…

1人息を吐いていると、隣から視線を感じた。
視線の先を見ると、千景が可笑しそうに口を歪ませてこちらを見ている。
思わず声をあげた。

「な、何よ。」


「いや、銀狐でも馬から落ちそうになる事があるのだな。」

バカにした様に言ったため、雪儷はむっとした。

この男…私が強く出れないからと偉そうに…
本当だったら今ここで襲いかかるのに!

だが、下手に強く出て簪が壊されてしまっては元も子もない。
雪儷はきゅっと唇を結び怒りを我慢した。

絶対隙をついて簪を取り返したら、瞬殺してやるんだから!

気を引き締めて着いた建物を見ると
なんとまぁ、簡単に言うと豪勢な屋敷だった。

なんか、目がチカチカする…


「入るぞ、早くしろ」

少し前に居た千景が声をかけた。

「分かってるわ!」

そう言って雪儷は馬から降りると屋敷の門へと足を踏み出す。
この門をくぐったらもう穏やかな生活には戻れない。
でも、やるしかないんだ。母様のため、雪蓮、銀狐のため。
そして全ては復讐の為に。

そうして雪儷は屋敷の中の地面に足を強く踏み入れ歩き出した。







***

そんな雪儷を横目で見ながら
千景は不審な笑みを浮かべていた。

全ては復讐か…

「さあ、どんな復讐劇を繰り広げようとするのだろうな。」


小さな声で呟く。
しかし、その呟きは雪儷には聞こえはしなかった。



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