鳥籠の底は朱い道
空虚の殺意
「――はぁ退屈だ」
朱道を木の枝に登り、星が輝く夜空を見上げる。
その声からは魂が抜けていきそうなほどの気だるさがあり、たったの一言で、誰でも分かる一言だった。
この日まで何事もないように朱道はいるのだが、実際今日はあの力に目覚めてから二回の週が過ぎている。
――それまでに朱道が血を喰らった人数は…………残酷すぎる世界に溶け込んだ故に朱道に人数の自覚はない。ない、ない。
本当に朱道は覚えてなど記憶に留めることなどない。百を超える死体の山を朱道は何の罪も感じないのだ。
百という数字はあくまで分かりやすく表した数字。正式に言うならば今日の五人を入れて百十三人。その中に神素を持つものは十、いや十五はいただろう。
つまり神素を持つものだけを獲物にするのではなく、無差別な殺しを繰り広げていたのだ。
そんな殺しをたったの二週間で行い、そして罪悪感ないのは正に殺しを生き甲斐としているが故だろう。
そしてそれは黒馬にとって嬉しいものでもある。

しかし最初の頃、つまり朱道が椿を殺した日はショックのあまりに会話は皆無。一緒の場所にいるのも嫌だったのか、何も言わずに一日をカラをした。
どちらにしても朱道は何も感じない。唯一の父に避けられようが、いくら嫌われようが今の自分は殺しを楽しむだけなのだから。
そんな朱道の視界に見えるのは星ではなく、この夜空を優雅に羽ばたく二匹の鳥。見た感じから夫婦の雀だろう。
「ふ、死ね……」
朱道は自分の人差し指を少しかじって血を出し、その人差し指を弾く。
すると弾丸のごとき血弾が二つ。精確に、ただ最短距離で二匹の雀を射抜く。
力なく羽ばたく翼も無意味に二匹の雀は落下していく。それを朱道はただ視線だけで眺める。
そこに感じるものは何もない。
ただ、目の前に生き物がいるのだから殺す。その本能に刃向かうことはしない。
この一つの森は完全な死を迎えている。それは隠れている訳でもなく、恐らく生き物は逃げ去るか朱道に殺されるかの二択しかなかったからだろう。
だからこの森に生き物らしい生き物は、自分と父である黒馬の二人しかいない。さっきの雀は何も知らずにここを飛んでいたのだろう。残念なことに。
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