鳥籠の底は朱い道
殺人傀儡
「はぁはぁ……」
たった一つの窓から零れる光が自分の足場をやっと確認出来る部屋。朱道は荒々しく呼吸を繰り返す。
その全身は真っ赤に染まっている。それは横たわる自分の倍以上の年を取っている男の死体が噴き出した血によるもの。
まだ人間を殺してから月日は浅い。今までは動物しか相手にしていない。
最初は自分が殺した動物が、自分の食するものだと知って嘔吐していた。けど今になれば『あぁ今日はこいつの肉か……』に変わるくらい慣れてしまった。
あぁ慣れとはこうも無惨なものらしい。
思い出せば朱道が自らの意志で命を奪ったのはいつだっただろうか?

確か凶暴になった空腹の狼と二人っきりになった時だっただろう。
あの時に持っていた武器は刀身が十センチもないただのナイフ。そんなものでは狼に到底勝てる訳がない。
ただ、狼が自分を殺すつもりで向かって来ていることを悟るまでは……。
だけど朱道は気がついた。

『殺らなければ殺られる』

というこの世界の秩序に。
だから、そこからが初めての真剣勝負にして死闘。
結果はギリギリで朱道が生き残ったが、朱道も死んでもおかしくない位いくつもの傷と出血があった。
朱道の治癒能力は人よりも遥かに高く、一週間以内には傷跡まで完治している。これが朱雀として当たり前のことなのだろう。
その後は色んな動物と野生の殺し合いを繰り広げた朱道。
戦闘の経験を積むごとに朱道の受ける傷は減り、遂には無傷という結果を出せるまでに成長を遂げた。
もちろん幾千もの血を浴びて全身を染める。けど、一度たりとも“嫌”という感情を表に出さない。むしろそんな感情などない。
最初は傷を負う、次に血を流す、そして今は血を浴びる。これが朱道の生きていることを実感出来る唯一の方法。
つまり戦闘中にこそ生きている証となってしまっていた。
――それもこれも全ては黒馬の調教のせいである。命令されたことだけを忠実に従う“殺人傀儡”の生成途中の姿。
もう獣では朱道を強くさせられない。ならばいよいよ本格的な殺人傀儡の道、本当の人殺しを教える。
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