鳥籠の底は朱い道
動物と要領を変えることなく朱道は初めて人間を殺した。だけどその時は人殺しの実感は得ていない。まだ相手が生物程度にしか認識していないから。
獣の方が死闘らしかった。
そう思ったのは相手の人間が持つ躊躇、それが朱道を殺すことを拒んだからだろう。
つまり、朱道が人間を相手にした時は死闘ではなく、ただ一方的な虐殺でしかない。
――だけどそれは黒馬も分かっていたこと。むしろわざとしたことだろう。朱道に人殺しを当たり前にするために。
だけど今日より戦う人間は違う。獣以上に危険で人を殺すことに躊躇しない、朱道と同じ部類の人間。
さぁ朱道はどう戦うだろうか……。

「――た、助けてくれ。お願いだ、命だけは……」
「ウルサイ、死ね」
必死の命乞いもあっさり一言で片付ける朱道。
その体には傷は一切なく、命乞いをする男はまともに立てないくらい酷い切り傷がある。
相手は確かに朱道を殺すつもりだった。だが、殺すという経験ははっきり言って朱道の方が遥かに上。確かに途中までは死闘らしかった、人間というのは自分が圧倒的に不利だと感じると逃げ出すことを考える。
――だが、獣は死ぬまで戦い続ける。この差が決着をつけた。そう朱道にとって戦いの終わりはどちらかの死でしかないのだから。
逃げる者を狩るのは得意。それが朱道にとっての遊びでもある。

今日はまだ弱かった。それが黒馬の感想。明日からはもっと残酷な人間を連れてくるだろう。
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