鳥籠の底は朱い道
朱道にとってこのクロといるのが当たり前になっている。例えいくら朱道が人を殺した後だろうともクロは何も変わらない様子で姿を現す。
家に連れて行こうとは思わない。
クロが付いてくるならば別だが付いてこないなら連れて行かない。クロは自由であるのだから。そう自分とは違って……。
クロと朱道の何も変わらない散歩だが、朱道の瞳には生き物を探す色はない。ただ今まで見てきた風景を別の角度から見ている。
生きているものってのは生物だけとは限らないってことか。
一本の大樹を見て朱道はそう感想を漏らす。
今まで動いてないと生き物と判断してなかった自分の新たな発見。

自然は生きている。

だからこの森も死んでなどいないということ。
――ふと足を止める朱道。
それは目の前に木のつるが行く手を阻んでいるからだ。
朱道はぶった切ろうと考えている矢先に動いたのはクロ。まるですり抜けるように木のつるを避けて先に進んでいく。
驚きの中、朱道も目の前のつるをぶった切るのをやめて、クロと同じように避けながら先に進んだ。
自然は生きている。目の前で自分の行く手を阻むのならそれを障害となし叩き伏せるのが朱道である。
だけど朱道はそれをせずに障害と分かっていながらも何もしなかった。それはクロがそれをしなかったから。
クロならば邪魔なものは排除する、という自分の原理と同じだと思っていたのにクロはそれをしなかった。
こいつは生きるために何をしてきたんだ?
生きるために邪魔するものを殺してきたんじゃないのか?
オレとは別だというのか……。
目の前を歩くクロを見ながら朱道は思う。
――けど朱道の考えは間違ってなどいない。進路ある白い綺麗な花。このまま歩けば確実に踏みつぶすだろう花。
朱道は構わず踏みつぶしたのだが前を歩いているのはクロ。つまりクロは花を避けたということ。
分からねぇ……。
朱道にとってクロは大きな存在。
謎だらけなのは承知しているのだが度を超えて分からないことが多い。
そうしてクロは一つの自然を壊さないまま歩き、その自然を壊しながら朱道も歩いて行き散歩は終わった。
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