記憶と。
 あれから2年。僕は大学2年になった。
ある日、自宅のポストに成人式の参加用紙が届いた。
とくに何も考える事無く、参加に丸を書いた。
そして1月10日。成人式の日を迎えた。

 バイクで会場に到着すると、そこには懐かしい顔がいた。
中学を卒業して以来、会ったことが無く、名前を忘れている人もいた。
男達は皆似合わないスーツで、女性達は綺麗な着物を着ていた。
みんな着物に負けないように濃い化粧で、昔からの知り合いでもないかぎり、ぱっと見ではだれか解らない状態だった。
かなりの人数が会場に来ていた。
その、誰が誰かわからない人ごみの中、これだけの人数がいるのなら綾子にふと会うのではないかとすら思った。。
もちろん頭の中ではそれが叶う事が無いのは解っていた。
それでも、無駄な期待と共に、会場を見渡す僕がいた。
そして、学校別の集合写真になっても、その後の打ち上げになっても、彼女は現れなかった。

 僕はこの成人式で、健二に初めて彼女が眠っている場所を聞いた。
僕はまだ、彼女が居なくなってから、一度も墓にも、焼香さえ上げれた事が無かった。
この成人式に来る前、たぶん聞ける最後のチャンスになりそうな気がしていた。
ここで聞いておかなければ、僕はずっとそれから逃げるのではないかと。
ようやく振り返れたのは、本能の僕が今日ここでそれを聞く為だったのかもしれない。

 僕は成人式が終わると、打ち上げまでの間の時間を使って彼女の墓へ向かった。
そこには、誰も人がいなかった。
ただ、墓石だけが、立ち並んでいた。
僕はゆっくり、彼女の墓を探した。
奥の方で、彼女を見つけた。
その石壁は、僕を現実に引き戻す名前も書いてあった。
僕は、彼女と会わなくなって5年。ようやく会えた、そこに居た彼女は、寂しそうに、一人で待っていたようだった。
さっきまで、ほんの少しの期待を持ちながら、会場で彼女を探していた僕を思い出すと、とても馬鹿らしく、悲しくなった。
頭では彼女がもう居ないことはわかっていた。
それでもまだ1度もそれを確認していない事で、どこかで信じていなかったのかもしれない。
しかし、そこには、現実しかなかった。
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