たった一人の甘々王子さま


十数時間後。
日本に到着。


何とか睡眠を確保し、結構ギリギリまで寝ていた優樹は浩司に起こされたのは言うまでもなく........
『眠り姫は王子のキスで起きますよ。』
って、甘いキス。
こんなところで実践しなくても良いのに......


キャビンアテンダントのおねーさんに見られなかったのが救いで......
ここは囲まれた席で、よかったというかなんと言うか........


ゲートを抜けたら父の秘書である川村さんがいた。


「優樹さん、相楽さんお帰りなさい。お待ちしておりました。」


忙しいのに時間をつくって迎えに来てくれた。優樹も手を振って駆け寄り『お久し振りです!』と、挨拶。
微笑む川村さんはリュック1つの優樹に首をかしげて、


「優樹さん、暫く滞在なさるのにお荷物はどちらに?」


聞かれた優樹も後ろに立つ浩司の右手にあるケースを指差して


「ん?浩司のこのケースに入ってるよ?」


なんて軽く答える。
まぁ、浩司が引っ張るケースはとても大きいのだが........二人分には少ないのかも、しれない。


「そうですか......では、車までご案内します。此方へ......」


川村さんが先頭に立ち、歩き出す。
そのあとを浩司、優樹と続く。
歩き出すとき、浩司はスッと左肘を曲げて優樹の前へ出す。
優樹も迷わずその腕に手を絡ませる。
そっと目線を合わせてお互いに微笑む。
二人の小さな幸せの時間だ。


「川村さん、社長に会いたいのですが........本社におられますか?」


車に乗り込むとき、浩司が質問した。
川村さんも運転席に乗り込んでから


「はい、本日は本社にて二つの会議にお出になられております。今から社に戻りますが、滞りなく済んでいるならばすぐにお会いできるかと......」


「そうですか、では、到着次第また確認をお願いします。」


後部座席に座った優樹は、二人のやり取りをただ聞いているだけ。
シートベルトをするから浩司にもたれ掛かれないのが残念だ......なんて思ったことはバレないように窓の外をみている。
川村さんが車を出し、流れる景色に目をやる。


「優樹?右手頂戴。」


ふと声がかかり、右側に座る浩司の顔を見た。首をかしげると、浩司は左手を出してきた。
『ん。』と、優樹の傍につき出す。
優樹も『ん?』と、右手を見る。


「はい、捕まえた。」


そう言われて、俗に言う『恋人繋ぎ』をされた。


「車の中では抱き締めてあげられないから、コレで我慢してね?」


ニッコリ微笑んで優樹を見つめる。
甘い笑顔は優樹の顔を赤くするのに十分すぎるほど。


そんな優樹に追い討ちで繋いだ手の甲に優しいキスを落とす。唇が離れると思ったら、ペロッと舐められた。


『俺が、我慢できないかもね?』
なんて囁いた声がイヤらしくて優樹の耳まで赤くなった。


「エロ大王、我慢しろ......」


優樹はそう言うと、流れ行く雲に視線を向けた。


気がつけば、車は高速を走っている。
自宅ではなく、会社に寄るのだからもう暫く時間もかかるだろう。
優樹は浩司と会話することなく、ずっと窓の外を見ていた。


いつの間にか、心地良い揺れに身を任せて、また眠りについていた。
機内でさんざん寝たのにも関わらず。

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