たった一人の甘々王子さま


どれくらい寝ていただろうか。
優樹はゆらゆら体が揺さぶられているのに気づく。
遠くで声も聞こえる。
『折角気持ちよく寝てるんだから起こすなよ......』
なんて思うくらい、今は気分が良い。

すると、
体がフワって浮いた。
すぐに暖かいものに包まれる。
大好きな香りがした。
とても心が安らぐ。
離れたくなくて、ギュッって引っ付いた。


あ、誰かの声が聞こえる。俊......?


「浩司さん、お帰りなさい。優、まだ寝てるんですか?って言うか、お姫様だっこって......さすが浩司さんですね。俺、もう優の事運べませんよ。無理です。」


「ただいま、俊樹くん。向こうを発つ前にちょっと夜更かししたからね......機内でも寝てたんだけど、川村さんの運転が心地よかったのかな?」


「暫く見ないうちに優の髪伸びましたね。服装も女の子になって......コレも、浩司さんのお陰ですね。」


「ありがとう。毎日愛情込めて接してるからね。そう言って貰えると嬉しいね。」


「もう、俺と間違われないと思いますよ。」


『じゃあ、俺、開発部に寄ってから社長室に行きますね。』


また静かになった。
体が上下して揺れる。
暫くしたら柔らかい所に置かれた。
温もりが離れる。
大好きな香りが遠ざかる。
『やだ、いっちやダメ......』


「優樹、起きれる?」


浩司の声が聞こえて目を開ける。
ここは......社長室?


「あれ?いつの間に着いたの?」


優樹は社長室のソファーに横になっていた。浩司に膝枕をしてもらっている。


「さっき、空港出たところでしょ?」


「優樹、出発してすぐに寝ちゃたんだよ。あと、さっき俊樹くんにもあったよ。」


「んー、父さんは?」


優樹はまだ眠たいのか起きる気配なし。
仰向けから寝返りをうち浩司の腰に腕を巻き付ける。
浩司も眠そうな優樹の仕草は大好きなのだ。頬を撫でたり、瞼にキスを落として優樹の反応を楽しむ。


「社長は、まだ会議だと思うよ。あとで俊樹くんも来るし。川村さんから連絡が来るはずだからもう少し寝てる?」


「寝てて良いならね......」


「ダメって言っても寝るでしょ?」


「んー......」


そんな二人のやり取り中に浩司のスマホが震える。


「川村さんからだ。......会議終わったからこっちに向かってるって。ほら、優樹も起きよう?」


浩司は自身の腰に引っ付くように巻き付いた優樹の腕を解く。
だが、寝起きの優樹はかなりの甘えただ。
すんなり浩司から離れるわけがない。


「ほら、起きて。優樹は社長の前でも寝てるの?」


「んー、起きるけど......まだ無理......」


なんて言っても、浩司に力業で起き上げられて、膝の上に座らされる。だが、浩司の首元に頭を預けてすりすり甘える。


「優樹、本当に社長が来るよ?」


「んー......」


「起きないと、ここで抱くよ?」


と、いつもの脅しで優樹を困らせた。


そう耳元で囁いたとき、浩司の後ろの扉が開いた。
と、同時に聞きなれた声も。


「浩司くん、優樹、待たせたね。」


社長である優樹の父が戻ってきた。秘書の川村さんともう一人の男性と共に。


浩司の首に抱きついていた優樹は目を見開き、離れるどころか更に浩司に引っ付く。
扉に背を向けた状態でも、声で社長だと解った浩司は優樹を引き剥がそうとするが、優樹が離れてくれない。


「優樹?どうしたの、社長が来たなら離れて。ほら、優樹。ね?」


首に巻き付いた優樹の腕を掴んだところで


「浩司......アイツがいるよ?ショウだ.....なんで?ど....して?」


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