たった一人の甘々王子さま


昼休み。


五時間目の授業の準備をするために手早く食事を済ませる。
と、そこに3年生のよく話をする女子生徒がやって来た。


「すみません。3Cの吉永です。相楽先生居ますか?」


「はい、居ますよ。吉永さん、どうしたの?」


優樹はドア付近で声をかける生徒に近寄る。優樹はこの子のクラスの副担任でもある。
彼女は心配事でもあるのだろうか?顔色が悪く感じる。


「吉永さん、どうした?悩み事でもある?場所変えよっか?」


「すみません。お願いします」


俯き加減の生徒の肩に手を置き準備室へ移動する。
設置されているソファーに座らせて自分もテーブルを挟んだ向かい側に座った。


「さて、話せるようになったら話してみて。長くなりそうなら、時間や日にちを改めるよ?」


優樹がそう切り出すと、


「優樹ちゃん。あたし......できちゃったかも.........しれない」


俯いたまま語り出す生徒の口調は今にも泣きそう。


「は?ちょっと、吉永さん?できちゃったかもって、もしかしての.........アレ?」


「......わかんない。怖くて病院行ってないもん。でも、生理が来ないんだもん。こんなこと担任は男だから話したくないし、保健の先生は怪我した生徒の引率で病院行って不在だし......年が近い先生っていったら優樹ちゃんしか居ないんだもん.........優樹ちゃん、新婚でしょ?こんなことなかった?」


涙を目に浮かべて、優樹を見つめる生徒にどう言葉をかけていいやら迷う。
こんなことないかと聞かれても......自分、まだ子供いないし。


「まず、彼氏には話したの?あと、遅れてるってどれくらい?体調にもよるからね、2週間とかなら心配しなくてもいいし。避妊、ちゃんとしなって日頃からいってるよね?」


「彼にはまだ話してないし、もう2週間ずれてる。ゴムは、出来るだけつけてもらってる......」


「出来るだけって......。もしもの時は女の子に負担がかかるってわかってたよね?着けるのを拒否するような彼とは別れなって前に話したことあったよね?............もしかして、その彼と?」


「......うん」


彼女は、母親を早くに亡くしていて、父子家庭だ。父親と弟の三人暮らしだったはず。こんなとき、母親がいたら彼女の不安は違ったのかも。


「よくある『つわり』みたいな症状はないの?気持ち悪かったり、吐き気がしたりとか。」


「ん~、今のところないかな。優樹ちゃんはあったの?」


「自分?まだ妊娠したことないからわかんないよ」


そう言ったわ良いが、今朝の事を思い出す。
『え?あの吐き気ってもしかする?まさかね。今月の予定日まだだしね。自分は違うな』
顎に手を当て、足元に視線をやり考え込む優樹。


「優樹ちゃん、どうかした?」


「いや、何でもない。よし、先生が付き添ってあげるから病院行こう」


「え?良いの?」


「良いも悪いもないよ。出来るだけ早い方がいいよね?今日の夕方の診察にでも行く?保険証、持ってる?お金は......足りなかったら先生が立て替えるから。」


「うっ.........先生、ありがとう.........」


とうとう泣き出してしまった生徒の傍に寄り添い、泣き止むまでしばらく準備室で過ごした。


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