たった一人の甘々王子さま
「あ、コータロー! なんだよ、お前も買い出し?偶然だな!」
振り返った優樹が笑顔で声をかけた男に近づいていこうと浩司の横をすり抜けようとする。
が、すぐさま浩司の腕が延び優樹の腰に巻き付けられる。
突然引き留められて、ガクッとつんのめった優樹が浩司を見上げた。
「ん、浩司? どした?」
「優樹、彼は?」
ちょっと不機嫌な浩司が顎で促し問いかける。
「え?コータロー?」
「そう、コータロー君っていうの。」
浩司が冷たく繰り返す。
鈍い優樹は?マークが飛ぶ。
さすがの優樹も『あれ?浩司って機嫌悪い?』とは、感じた。
「えっと、バスケ仲間。で、父さんの会社とも繋がりがあって........あと、野崎財閥の次男坊。な?コータロー。」
優樹は浩司に説明をするものの、最後はコータローの方を向いて同意を求める。
浩司には、その仕草がまたシャクに障り優樹の首筋に顔を寄せる。
「あ、初めまして。野崎 浩太朗(ノザキ コウタロウ)です。」
浩太朗が頭を下げて挨拶する。
スポーツをしているだけあって背も高いし、浩司と変わらない身長。
さらに、優樹好みの厚みのある身体だ。
浩司が浩太朗をじっと見つめる。
負けじと浩太朗も視線を合わせる。
二人の男に挟まれる感じで優樹の目線は上を向く。
暫しの沈黙を破ったのは浩太朗だった。
「優樹、今日はちゃんと女性の格好だな。一瞬、判らなかったよ。」
「ん?」
「......もしかしたら、噂の婚約者が一緒だからか?」
思わぬ返しが来て驚く。
「え?その話、コータローんとこに筒抜けなの?」
優樹は浩司の紹介どころではない。
浩太朗は頷き、
「先週、ジィさまに会いに行ったら『田所んとこの姫が婿もらうぞ』って言ってた。」
「うっそ! 浩司、知ってた?」
優樹は腰に巻かれた浩司の腕を外しながら振り向き、ことの次第を確認する。
「まぁ、取引先の取締役には連絡がいってるかもね。 なんせ、優樹は社長令嬢だし。 ......野崎さん、申し遅れました。優樹の婚約者、相楽浩司です。」
浩司は大人の余裕を見せて、挨拶をする。
目が笑っていないので、浩太朗は『ライバル視されたな........』と、感じた。
なので、余計な争い事を避けるため浩司に話しかける。
「相楽さん、今度うちが主催のパーティーがあるんですけど如何ですか? 近いうちに田所社長の所に案内が届くはずです。是非、優樹と来てください。」
「お誘いありがとう。喜んで参加させてもらいます。な、優樹?」
「え? う、うん。」
優樹には、男二人の水面下の取引に気が付く筈もない。
浩太朗も長居は無用だと判断し、『また試合会場でな。』といって去っていった。