ビターチョコ
「お、そろそろ消灯時間。
女子の皆、帰ってくるんじゃない?
俺もそろそろ戻ろうかな」
拓実くんはそう言うと、私を手招きする。
読んでいたファッション雑誌を、一度脇に置いて、彼の元に向かった。
腕を引かれて、壁にそっと身体を押し付けられる。
逃げないけど、逃げたくても無理だ。
拓実くんの腕が邪魔で身動きがとれない。
これは、もしかしなくても、琥珀ちゃんが巽くんにされたという、「壁ドン」ってやつ?
「おやすみ。理名ちゃん。
返事はゆっくり考えて、5日後に聞かせて。
急かすつもりもないから。
どんな決断しても、応援するからね。
じゃ、暑いけどちゃんと寝るんだよ」
頭を軽く撫でて、華恋や琥珀ちゃんにもおやすみを言うと、彼は部屋を出ていった。
拓実くんと入れ替わるように、深月が部屋に戻ってきた。
明らかに、卓球場から出たときと歩き方が違った。
がに股で歩いているようにも見える。
秋山くんと何があったんだろう。
「お、深月。
おかえりー」
「た、ただいま……」
深月は、華恋や私の顔をなるべく見ないようにしてソファに座った。
次に部屋のドアを開けたのは、先程まで部屋にいた美冬だ。
「もー、賢人ったら。
今日だけいつもと違くて。
ちょっと強引だったしいつもより少し激しめだった。
何だったんだろ」
華恋は私と琥珀ちゃんに向かってVサインをしている。
……おそるべし。
「あっぶなーい。
2分前!
早歩きも走るのもムリ。
腰どころか身体中痛い。
こんなんで急げって言われても。
もう、麗眞のバカ」
消灯時間ギリギリにゆっくり部屋のドアを開けるなり、ベッドにダイブしたのは椎菜だ。
「麗眞ったら、もう。
部屋入るなり私に言ったの。
しかも耳元で!
『そんな格好してるのが悪い。
俺が風呂入る前にそんな可愛い格好で行ってらっしゃい、ってキスなんてされたらさ。
しかも背伸びしてたからTシャツの中モロ見えてたしね。
髪濡れてたから、余計に色っぽかったし。
そんなの見せられてどうなるかなんて椎菜ならわかるでしょ?』
甘い台詞を耳元で言われて、私もスイッチ入ったからまぁ、よしとするけど。
自分でこれだけはさせて?って胸触ってきたくせに。
まぁ、私も麗眞に触られてキスされるだけじゃ物足りなくて疼いてたから、ちょうどよかったけど。
麗眞、策士なのよね。
私の方からその気にさせるのが上手い、っていうか」
寝転がりながら、愚痴っぽく言ってはいるが言葉の端々からは喜びが滲み出ている。
「なーるほど。
珍しく椎菜から攻めたわけね、それでお返しとばかりに大きさのある麗眞くんのを突っ込まれた、と。
さらに鎖骨やら太ももやら足首にまで所有印刻まれたみたいだし。
まぁ、かく言う私もよ。
優しい賢人にしては珍しく強引にされたわ。
普段見えづらいところに、限りなく薄く付けてくれるのに、両肩に付けられたし。
しかも割とくっきりと」
美冬は、ワンピースの肩を生地が伸びるのも構わずに露出させた。
確かに、蚊に刺されたという言い訳をするには苦しい、赤い痕が肩に数個刻まれている。
華恋はまたしてもVサインをしていた。
「私はね、そうなると思ってたよ、美冬。
私と美冬と小野寺くん、理名と拓実くんに琥珀ちゃんでこの部屋いたときのこと、もちろん覚えてるわね?
話に口を挟んだ小野寺くん、目はちゃんと美冬見てたもん。
それも、肩と太ももの辺りを交互にね。
理由は美冬が昼間私服でオフショル着てたのと、今のワンピースの丈が短いから。
他の男たちの目線が気になって仕方なかったんじゃないかなって。
美冬、小野寺くんにこの部屋から連行される前になにか言われてたしね」
「ああ、あれはね。
『頼むからそんな短いの着るなって。
俺と2人ならむしろ大歓迎なんだけど。
いくら親友とはいえ、他の男の目があると気が気じゃないの。
細くて白い太ももチラ見えなんて、襲ってくださいって言ってるようなものだし。
昼間の肩出しとかもさ、ホント勘弁。
そんな無自覚だと、どうなるか教えてあげるから、俺と一緒に来て』って。
たまたまなのか確信犯なのか、部屋を出て少し歩いたら相沢さんとすれ違ったの。
空いてる部屋案内してもらった、ってわけ」
「なんか台詞が麗眞くんと小野寺くんで似てるね、っていうのはツッコまないでおくけど。
部屋で思う存分イチャついてたんでしょ?
熱いねー、お二人さん」
「そう言う深月もさ?
さっきから歩き方おかしいよ?
脚でも痛いの?」
「これは、うん、ちょっとね」
「こらー!
深月!
ちょっとね、で逃げるなー!」
「そうだよ深月。
ここらで白状なさいな。
バージン卒業したんでしょ?
しかもこの数時間の間に」
椎菜の台詞を聞いた華恋があちゃー、という顔をしていた。
さすがの恋愛のカリスマも、ここまでは予想外だったらしい。
というか、椎菜ほどの経験者になると態度で分かるのか。
「ええ!?
ちょ、早くない?
ついこの間まで怖くてストップかけちゃった、とか言ってなかった?」
「ミッチー、結構強引に来てくれたから怖さなんて吹っ飛んじゃった。
私のこと、可愛いって言ってくれるけど、ミッチーの方が色気あったの。
『悪い、深月。
下着も裸もエロい。
俺がどうにかなりそう。
優しくとか、無理だわ。
余裕ない。
……いいよね?』
って一気に突っ込まれて、バージン奪われた。
痛みは強くてこのまま死ぬんじゃないかと思ったけど、その後の幸福感ヤバかった。
2人の言ってたとおりだ」
「でしょ、でしょ?」
「大丈夫。そのうち痛みもなくなるよー。
あ、でも、1週間くらいは痛み続くから、そこだけ覚悟したほうがいいかも」
椎菜の一言に、深月は小さく頷いた。
経験者は語る、ってやつか。
「あ、そうそう。
巽くんに遠征でいなかったときのノートに自分の連絡先挟んでおいたら連絡先無事に教えてもらえたみたい。
明日には連絡来るかもなんだけど、
土日のどっちかで巽くんとデートらしいの、琥珀ちゃん。
皆からのアドバイスほしいんだって」
「ね、いつの間にそんな話になってるの?」
ってか、連絡先GETしたなら教えてよねー」
美冬と私で、事の次第を知らない椎菜と深月に説明する。
「なーるほどね。
何よ。この際だし告っちゃえば?」
「そうそう。
気になる人の叔父さんの誕生日プレゼント選びになんて、よっぽど好きな子じゃなければ付き合わないって。
買い物のついでにいろいろ、琥珀の好みも知りたいからだったりして」
深月と椎菜は納得したように微笑む。
「明日、集まれる人いる?」
美冬の言葉に、深月と椎菜が首を振る。
「ごめんね、普段なら喜んで付き合ったんだけど、まともに歩けそうにないんだ」
「右に同じ。
ごめん。
もー、腰痛くするまでしないでほしい。
このままじゃ身体もたないって、ほんと」
深月は脚を、椎菜は腰や肩を強めにさすりながらNGを出す。
「あれ、明日学校は?」
私の言葉に、皆キョトンとした。
「え!?
昨日の朝のホームルームで担任が言ってたじゃない。
明日は期末試験、土曜日に1日あった分の振替休日だって」
「そうそう。まぁ、間違って来たやつがいたら補習してやってもいい、とか笑いながら言ってたじゃない」
そ、そうだったっけ?
「まったく、理名ったら。
理名が担任の言葉聞いてなかったなんて珍しいじゃない?
ウチらが今日のために陰でコソコソ動いてたことが気になって仕方なかったとみた」
まったくもって、そのとおりです。
女子の皆、帰ってくるんじゃない?
俺もそろそろ戻ろうかな」
拓実くんはそう言うと、私を手招きする。
読んでいたファッション雑誌を、一度脇に置いて、彼の元に向かった。
腕を引かれて、壁にそっと身体を押し付けられる。
逃げないけど、逃げたくても無理だ。
拓実くんの腕が邪魔で身動きがとれない。
これは、もしかしなくても、琥珀ちゃんが巽くんにされたという、「壁ドン」ってやつ?
「おやすみ。理名ちゃん。
返事はゆっくり考えて、5日後に聞かせて。
急かすつもりもないから。
どんな決断しても、応援するからね。
じゃ、暑いけどちゃんと寝るんだよ」
頭を軽く撫でて、華恋や琥珀ちゃんにもおやすみを言うと、彼は部屋を出ていった。
拓実くんと入れ替わるように、深月が部屋に戻ってきた。
明らかに、卓球場から出たときと歩き方が違った。
がに股で歩いているようにも見える。
秋山くんと何があったんだろう。
「お、深月。
おかえりー」
「た、ただいま……」
深月は、華恋や私の顔をなるべく見ないようにしてソファに座った。
次に部屋のドアを開けたのは、先程まで部屋にいた美冬だ。
「もー、賢人ったら。
今日だけいつもと違くて。
ちょっと強引だったしいつもより少し激しめだった。
何だったんだろ」
華恋は私と琥珀ちゃんに向かってVサインをしている。
……おそるべし。
「あっぶなーい。
2分前!
早歩きも走るのもムリ。
腰どころか身体中痛い。
こんなんで急げって言われても。
もう、麗眞のバカ」
消灯時間ギリギリにゆっくり部屋のドアを開けるなり、ベッドにダイブしたのは椎菜だ。
「麗眞ったら、もう。
部屋入るなり私に言ったの。
しかも耳元で!
『そんな格好してるのが悪い。
俺が風呂入る前にそんな可愛い格好で行ってらっしゃい、ってキスなんてされたらさ。
しかも背伸びしてたからTシャツの中モロ見えてたしね。
髪濡れてたから、余計に色っぽかったし。
そんなの見せられてどうなるかなんて椎菜ならわかるでしょ?』
甘い台詞を耳元で言われて、私もスイッチ入ったからまぁ、よしとするけど。
自分でこれだけはさせて?って胸触ってきたくせに。
まぁ、私も麗眞に触られてキスされるだけじゃ物足りなくて疼いてたから、ちょうどよかったけど。
麗眞、策士なのよね。
私の方からその気にさせるのが上手い、っていうか」
寝転がりながら、愚痴っぽく言ってはいるが言葉の端々からは喜びが滲み出ている。
「なーるほど。
珍しく椎菜から攻めたわけね、それでお返しとばかりに大きさのある麗眞くんのを突っ込まれた、と。
さらに鎖骨やら太ももやら足首にまで所有印刻まれたみたいだし。
まぁ、かく言う私もよ。
優しい賢人にしては珍しく強引にされたわ。
普段見えづらいところに、限りなく薄く付けてくれるのに、両肩に付けられたし。
しかも割とくっきりと」
美冬は、ワンピースの肩を生地が伸びるのも構わずに露出させた。
確かに、蚊に刺されたという言い訳をするには苦しい、赤い痕が肩に数個刻まれている。
華恋はまたしてもVサインをしていた。
「私はね、そうなると思ってたよ、美冬。
私と美冬と小野寺くん、理名と拓実くんに琥珀ちゃんでこの部屋いたときのこと、もちろん覚えてるわね?
話に口を挟んだ小野寺くん、目はちゃんと美冬見てたもん。
それも、肩と太ももの辺りを交互にね。
理由は美冬が昼間私服でオフショル着てたのと、今のワンピースの丈が短いから。
他の男たちの目線が気になって仕方なかったんじゃないかなって。
美冬、小野寺くんにこの部屋から連行される前になにか言われてたしね」
「ああ、あれはね。
『頼むからそんな短いの着るなって。
俺と2人ならむしろ大歓迎なんだけど。
いくら親友とはいえ、他の男の目があると気が気じゃないの。
細くて白い太ももチラ見えなんて、襲ってくださいって言ってるようなものだし。
昼間の肩出しとかもさ、ホント勘弁。
そんな無自覚だと、どうなるか教えてあげるから、俺と一緒に来て』って。
たまたまなのか確信犯なのか、部屋を出て少し歩いたら相沢さんとすれ違ったの。
空いてる部屋案内してもらった、ってわけ」
「なんか台詞が麗眞くんと小野寺くんで似てるね、っていうのはツッコまないでおくけど。
部屋で思う存分イチャついてたんでしょ?
熱いねー、お二人さん」
「そう言う深月もさ?
さっきから歩き方おかしいよ?
脚でも痛いの?」
「これは、うん、ちょっとね」
「こらー!
深月!
ちょっとね、で逃げるなー!」
「そうだよ深月。
ここらで白状なさいな。
バージン卒業したんでしょ?
しかもこの数時間の間に」
椎菜の台詞を聞いた華恋があちゃー、という顔をしていた。
さすがの恋愛のカリスマも、ここまでは予想外だったらしい。
というか、椎菜ほどの経験者になると態度で分かるのか。
「ええ!?
ちょ、早くない?
ついこの間まで怖くてストップかけちゃった、とか言ってなかった?」
「ミッチー、結構強引に来てくれたから怖さなんて吹っ飛んじゃった。
私のこと、可愛いって言ってくれるけど、ミッチーの方が色気あったの。
『悪い、深月。
下着も裸もエロい。
俺がどうにかなりそう。
優しくとか、無理だわ。
余裕ない。
……いいよね?』
って一気に突っ込まれて、バージン奪われた。
痛みは強くてこのまま死ぬんじゃないかと思ったけど、その後の幸福感ヤバかった。
2人の言ってたとおりだ」
「でしょ、でしょ?」
「大丈夫。そのうち痛みもなくなるよー。
あ、でも、1週間くらいは痛み続くから、そこだけ覚悟したほうがいいかも」
椎菜の一言に、深月は小さく頷いた。
経験者は語る、ってやつか。
「あ、そうそう。
巽くんに遠征でいなかったときのノートに自分の連絡先挟んでおいたら連絡先無事に教えてもらえたみたい。
明日には連絡来るかもなんだけど、
土日のどっちかで巽くんとデートらしいの、琥珀ちゃん。
皆からのアドバイスほしいんだって」
「ね、いつの間にそんな話になってるの?」
ってか、連絡先GETしたなら教えてよねー」
美冬と私で、事の次第を知らない椎菜と深月に説明する。
「なーるほどね。
何よ。この際だし告っちゃえば?」
「そうそう。
気になる人の叔父さんの誕生日プレゼント選びになんて、よっぽど好きな子じゃなければ付き合わないって。
買い物のついでにいろいろ、琥珀の好みも知りたいからだったりして」
深月と椎菜は納得したように微笑む。
「明日、集まれる人いる?」
美冬の言葉に、深月と椎菜が首を振る。
「ごめんね、普段なら喜んで付き合ったんだけど、まともに歩けそうにないんだ」
「右に同じ。
ごめん。
もー、腰痛くするまでしないでほしい。
このままじゃ身体もたないって、ほんと」
深月は脚を、椎菜は腰や肩を強めにさすりながらNGを出す。
「あれ、明日学校は?」
私の言葉に、皆キョトンとした。
「え!?
昨日の朝のホームルームで担任が言ってたじゃない。
明日は期末試験、土曜日に1日あった分の振替休日だって」
「そうそう。まぁ、間違って来たやつがいたら補習してやってもいい、とか笑いながら言ってたじゃない」
そ、そうだったっけ?
「まったく、理名ったら。
理名が担任の言葉聞いてなかったなんて珍しいじゃない?
ウチらが今日のために陰でコソコソ動いてたことが気になって仕方なかったとみた」
まったくもって、そのとおりです。