ビターチョコ
皆で、ススキ花火を楽しんだ。

手持ち花火なんて、初めてだ。

琥珀ちゃんは、彼女のクラスの友達のところで花火を楽しむという。
彼女の選択を止めさせる余地は、私たちにはない。
チャッカマンなんて頼らず、既に火がついている人から火を貰って楽しんだ。

「筒の途中につけると大きな火の玉になったりいたします。
最悪の場合爆発することもございますので、お気をつけ下さいませ」

麗眞くんの執事さんの一言で、皆は青ざめた顔をした。
大人しくチャッカマンを使って、紙の部分にきちんと火をつけた。
先に花火が終わった陽花ちゃんが、線香花火を人数分取ってきた。

「いいこと思いついた!
たくさん人数いるし、2人ずつペアになって、どっちが線香花火の火を長く持たせられるか勝負しない?」

「別にいいけど。
何?
ババ抜きに負けたのが、そんなに悔しいってわけ?」

「面白そうじゃん!」

ポカンとしている麗眞くんと椎菜ちゃんカップルに、深月ちゃんが教える。

「お2人さんは知らないだろうけど、ババ抜き負けたの陽花ちゃんなんだよ」

「なるほど。
だからなのね」

「ババ抜きより運に左右される線香花火で勝負って、ちょっと博打な気がしない?」

「女子に俺が混ざっても逆ハー状態になるだけだから、俺と相沢は審判やる」

ジャンケンと、グーパーで分かれましょうの声があちこちから起こる。

やるからには、真剣にやらなきゃね。
グーの組、パーの組に分かれてそれぞれ、2組で対決することに。
負けたのは、私と華恋ちゃん、野上ちゃんだ。

勝った人どうしで総当たり戦をしていき、決勝は陽花ちゃんと美冬ちゃんの2人だった。

「勝ったー!」

陽花ちゃんが見事勝利してババ抜きの雪辱を果たした。
そんなトーナメントが幕を閉じた頃、担任の声が聞こえた。
そろそろバスに戻らなければならない。

楽しい時間は、倍の時間で過ぎていったような気がする。

あと少しでいいから楽しみたかった。
名残惜しい気持ちを胸に秘めながら、バスに戻った。
こんな気持ちになったのも、きっといい経験になる。

「行こうか」

「そうね」

いつものメンバーで、ゾロゾロと列をなしてバスに乗り込む。

「ねー、理名ちゃんと椎菜ちゃんは、もう好きな人いるって分かったけど、他の皆はどうなのよー」

陽花ちゃんが皆がバスの座席に座るなり唐突にこう言った。
それ、今聞くこと……?

「線香花火の勝者命令だよー?
いつのタイミングでもいいから、この宿泊オリエンテーションが終わるまでには、正直に白状すること!」

「だからって、今言うのも気恥ずかしい」

バスの中は和気あいあい、皆思い思いのことを話している。

それにかき消されるかもしれないが、他の異性もいる中で話すのはちょっとまずいのではないか、と思った。

「その線香花火勝者命令とやらは、早くてお風呂の時、遅くても今日の日付が変わるまでにはこのメンバーに話すってどう?」

「さすが理名ちゃん!
よく言った!
それでいこう!

帰りのバスの中は、それぞれ、たわいもない話で盛り上がった。

バスが旅館に着くと、着いたクラス順から入浴することになっているらしく、私達のクラスは4番目だった。
深月ちゃんがしおりを広げて19時15分には下の大浴場前にいればいいと言った。

「じゃあ、さっそく勝者命令発動させよう。

時間ギリギリになったら困るから、理名ちゃんたちはお風呂で使う着替えやら道具持って私達の部屋集合ね!」

命令発動、早くない?
早くてお風呂の時、と私は言ったはず。

でもまぁ、いいか。

麗眞くんの家に椎菜ちゃんと泊まったあの日のように、誰かがのぼせてしまっては困る。

今から、お風呂に入っている途中も、他メンの恋バナ延々と聞くのかぁ。
相槌なんて打てないし、アドバイスもフォローもできないのになぁ。

何しろ、自分の恋でさえ、進め方が分からないのに、他人の恋にやいやいと口を挟んでいる余裕なんてない。
私が肩を竦めたのがわかったらしい。

深月ちゃんと椎菜ちゃんが、私の肩を何度も叩いた。

「もー、真面目すぎなの、理名ちゃんは!」

「話してる当人は気持ちを聞いてもらうだけで楽になれるの。
そうなりたいから恋バナするの。
わかった?」

心理学を極めた深月ちゃんのその言葉に、肩の荷が降りた気がした。
そんじょそこらの高校生より、心理学に関しては知識がある彼女が言うことならば、納得が出来る。

私は、人の身体を治す医療の知識には、同年代の高校生よりは詳しい自負がある。
しかし、心となるとさっぱりだ。

「深月ちゃんと理名ちゃん。
2人が一緒になると、ちょうどいいね!」

椎菜ちゃんの的確な指摘に、2人で一緒にそうだねと頷いた。
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