白い海を辿って。

『滝本さんだ、と思って。』

「はい。」

『滝本さんだ、と思って。でもごめん、何も考えずに声かけた。』

「いえ、嬉しかったです。」


私だと思って声をかけてくれた、ただそれだけの理由がとても先生らしくて笑ってしまう。



『なら良かった。偶然だね。』

「そうですよね、先週も会ったのに。」


偶然じゃない。

私は先生に会いにここに来たのだから、偶然じゃない。

でもそんなことはとても言えなくて、先生に合わせて偶然を装う。



『それ、滝本さんの車?』

「あ、はい。」


祖父母がが買ってくれた新車は、人気俳優がCMに出演していることで若い女性に人気の車だ。

軽だから小さくて狭いけれど私にはこれで充分だし、何より可愛い。


教習所でお世話になった先生は沢山いるけれど実際に自分の車を見てもらうのは先生が初めてで、そのことでさらにこの車が好きになった私は単純だろうか。



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