白い海を辿って。
『そんなの、できないよ。』
「なんで?」
『そこまでしてもらうのは申し訳ないから。』
「俺に遠慮なんかすんな。」
また一歩距離を詰めると、再びすっと背中を向けてしまう。
俺にとってはなんてことないのに。
『ごめんね。見られたくないの…病院にいるときの私を。』
「明日実。」
どう返せばいいのか分からずに名前を呼んでみたけれど、やっぱり振り向いてはくれない。
俺は全てを知りたいと思っていても、彼女にはまだ知られたくない姿があるんだ。
「ごめん。」
『ううん。はるくんは何も、』
言葉に詰まった俺に何かを返そうとした彼女もまた言葉に詰まる。
彼女は悪くないと、気にしないでほしいと伝えたいのに、言えば言うほど追い詰めてしまうような気がした。
「よし、俺も手伝うよ。」
空気を変えたくて努めて明るい声を出すと、やっと彼女がふっと笑ってくれた。
彼女とお揃いのエプロンを着けようとしたとき、まだ焦る気持ちがあったのか手がお皿に当たり、そのまま落ちて割れてしまった。