白い海を辿って。
『…って、そんなこと思うから失敗したんだろうけど。』
そう言って笑う先生を、とても遠くに感じる。
これが、先生が指輪を外した理由だった。
どんなに考えても、私には分からないんだと思う。
幸せな恋愛をしたことがない私に、結婚してその上失敗したと言う人の気持ちが分かるはずもない。
『だから妻が怒ることはないから。』
返す言葉が見つからなかった。
納得することも安心することも、喜ぶこともできない。
それ以上は踏み込むことができず、気付いたら車は駐車場に戻っていた。
『あ、滝本さん。
連絡先、聞いてもいいかな?』
シートベルトを外しながら、そういえば私も今日は連絡先を聞きたいと思っていたことを思い出す。
こんな偶然はもう2度とないだろうし、きっとこれからは連絡しないと出会えない。
先生の連絡先を知れることは嬉しいはずなのに、1度遠く感じてしまった距離を埋めるのはとても難しいことのように思えた。