白い海を辿って。

差し伸べられた手を握れず、ノックされたドアを開けられず、そんなんじゃ距離なんてずっと縮まらないのに。



『大丈夫だよ。』


それでも隣から聞こえてきた声は、とても優しくて温かかった。



『ごめん、なんか踏み込みすぎて。』

「いえ、そんな…」


先生は何も悪くないのに、謝ることなんて何もないのに。


言葉足らずな私の想いが先生に伝わったかどうかは分からない。

だけど『大丈夫』だと笑ってくれる先生の笑顔は私を安心させてくれた。



『遅くなっちゃったな、家まで送るよ。』

「大丈夫です、歩いて帰ります。」

『でも危ないから。俺が送りたいんだ。』


そう言った先生は最後まで笑顔のままで。

車を降りた私に『おやすみ』と微笑んでくれたその笑顔は嘘偽りのない素直でまっすぐなものだった。


先生は決して差し伸べた手を引っ込めたりしないし、1度ノックしたドアの前からも立ち去らない。


でも、もし優しさに種類があるとしたら、先生の優しさは何だろう。

個人的な優しさ?

それとも元生徒に対する義務的な優しさ?


先生は、私のことをどう思ってるの?



< 45 / 372 >

この作品をシェア

pagetop