毒舌紳士に攻略されて
全てが苦手なのかもしれない。
周りと同じように「素敵!」って騒げたらいいのかもしれない。
でもそれだけはダメ。……もう昔のような思いなんて、二度としたくないもの。

昔の記憶が一瞬頭をよぎると、急激に胸が苦しくなる。

嫌だな、忘れていたはずなのに――……。

「行こう、佐藤」

返事を返さない私の名前を呼ぶ声は優しくて、顔を上げればさっきのように微笑んでいた。

「……うん」

痛む胸を押さえながら坂井君の後を追い掛ける。
当然紳士的な坂井君は、私の歩幅に合わせ歩くスピードを緩めた。

本当、一々紳士的だな。

少しだけ痛みが緩和される。

どんなに彼が紳士的でも、ドキッとさせられてしまっても私が苦手なことは変わらない。
これからもきっと――……。

こうやって一緒の時間を過ごさなくてはいけないのも、同期会までの辛抱。
今回の同期会が終わってしまえば、一年以上一緒に幹事をやることはないのだから。



この時の私には予想できずにいた。
まさかこの先にとんでもない事態が起こるなんて――……。
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