毒舌紳士に攻略されて
久し振りに見た石川君は、昔の面影が少しだけ残っていた。
だからすぐに気付いた。……石川君だって。

「逃げてきちゃったな」

ふと思い返せば、私が逃げることはなかったのかもしれない。
だってどう考えても悪いのは石川君の方だったわけだし。……私はただ騙されただけだし。

でも今になって考えればそう思うだけで、あの時の私にはそんな余裕などなかった。
一瞬にして高校時代の記憶がフラッシュバックし、とにかくあの場から離れたくて堪らなかった。
ひとりになりたかった。

「坂井君……怒っているかな」

無理矢理腕を払いのけちゃったし。

だけどあの時はとにかく胸が苦しくて仕方なかった。
そんな状態で坂井君と一緒にいられなかったし、なにより一緒にいたくなかった。

昔の惨めな自分を見られているようで嫌だったし、せっかく坂井君と新しい恋愛したいって思えていたのに、昔の記憶を頭にいっぱいにした状態で一緒になんていられないよ。
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