彼と私と秘密の欠片
「ふえぇ~……」
誠司さんの腕の中の赤ちゃん――栄太君が泣き出した。
きっと、私が大声を出してしまったせいだ。
だけど、私の頭はMAXで混乱。
誠司さんは栄司君を軽く揺すってあやしている。
「せ、せ……せ、誠司さん!? なんでっ……だって……だって、だって言ったよね!?」
パニック状態のせいで、上手く口が回らなくて、ちゃんと言葉が出てこない。
きっと傍から見たら、酷く滑稽だろう。
「誠司さん、結婚してないって、言ったよね!?」
誠司さんに初めて会って、一目惚れして、誠司さんの歳を聞いた時。
二十六なら結婚しててもおかしくないし、こんなにかっこいいんなら彼女がいたっておかしくない。
だから、あらかじめ聞いておいた。
彼女とか、奥さんとか居ないんですかって。
そしたら誠司さんは、どっちもいないよ、って……そう答えてたはずなのに。
「うん……確かに、結婚してないよ。……今はね」
栄太君は、誠司さんの腕の中でだんだん落ち着いてきて、瞼がトロンと眠そうになっている。
私は、誠司さんの言ったことを聞いただけで、どういうことなのか、予想がついてしまった。
「俺、昔はしてたから。結婚」
……誰か……本当に誰でもいいから、誰か、嘘だということにして下さい。