彼と私と秘密の欠片

「雛ちゃん、ごめん! ちょっと色々することがあって……」


そう言って誠司さんが現れたのは、八時半前だった。


「ううん。そんなに待ってないから、大丈夫」


本当は、待ってる間ずっとそわそわしてて、落ち着かなかったけど、私はそう言って何でもなかったような態度をとった。


「――それで、雛ちゃん。早速なんだけど」


来た!

私は思わず身構えた。


いよいよ言われる。誠司さんの、本当の気持ち。


そう思っていたのに……


「ちょっと付いてきてほしいんだ」


「……へ?」

私の今の顔を言葉で表現したら『ポカン』というのが最適だろう。


いきなり話というのもどうかとは思うけど、いきなり「付いてきて」もどうなの?

誠司さんの意図が分からずに、私は混乱する。


「ちょっと、急がないといけなくてさ」

誠司さんはその言葉の通りに、携帯でチラッと時間を見ている。

私は何も言えずにただ頷いた。


「ごめんね。じゃあ行こう」

誠司さんはせかせかと歩き出した。私もその少し後ろから付いていった。


……こんな急いでる誠司さん、初めてだ。

いつもはもっとゆったりとしてる。誠司さんの昼休みに一緒にランチを食べている時だって、ちょっとぐらい大丈夫だよ、と言って遅れて戻っていく時だってある。

仕事中の時は別として、急いでる誠司さんのイメージは、私にはなかった。


「……ねえ、誠司さん」

私は足を速めて誠司さんの隣に追いつき、声をかけた。


「え? ……ああ、ごめん、速いね」

誠司さんは歩く速度を少し遅くした。


「ううん……それは別に大丈夫なんだけど……その、どこ行くの?」

私はやっとの思いでちゃんとしたことを誠司さんに言うことができた。


「うん……俺の実家だよ」


「へ……えぇっ!?」

私は一瞬ぽかんとして、すぐに大きな声で驚いてしまった。


誠司さんの実家って、どういうこと?

何で私がいきなり誠司さんの実家に行くことになるの?

ていうか、何の為に誠司さんの実家に行くの?

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