最低王子と恋の渦









   *   *   *







――「兄貴ぃ」



「おん?」



「田中さん帰っちゃったじゃねーかよぉ」



「いやいや、悪いのはあの秀吉くんじゃね?」



「完全に兄貴のせいだっつの!…だから来んなって言ったのに」





拗ねたように横目で和久井直哉の兄、もとい和久井武哉(タケヤ)を見やった直哉はハァとあからさまに溜息をつく。





「なんでお前がそんな落ち込んでんの?お前まさか美乃ちゃんのこと好きなん?」



「ち、違うって。ただ、田中さんとは親近感湧くから仲良くしたいっていうか…」



「それお前が勝手に感じてるだけで向こうはなんとも思ってねぇんじゃねぇの?」



「う、うるせーよ!」




とにかくもう帰れって!と武哉の背中を押して店の外に追い出そうとする直哉は分が悪そうに顔を歪めている。

それをチラリと見つつ、武哉は鼻で笑った。




「ま、美乃ちゃんにはあのイケメン秀吉くんがいるから無理だろうけど」



「え?でも田中さん三鷹とは付き合ってないって…」



「馬鹿かお前は。付き合ってなくても両想いってパターンがあるだろ」



「うぇ!?まじで!?両想いなのあの二人!?」



「どう見てもそうだろ」



「うわー!田中さんの裏切り者ー!」



「…なんだよ裏切り者って。やっぱお前美乃ちゃんのこと、」



「くっそー!俺も早く彼女欲しいぃっ」



「……」




アホだ。とまた武哉は呆れた顔を浮かべて鼻で笑う。


直哉がこういった類に敏感になってしまった原因が、まさか兄である武哉であったなんて武哉本人は知る由もない。




< 261 / 347 >

この作品をシェア

pagetop