からくれなゐ
「おお、そのように怖い顔をするものではない。何、この寺の空き倉に連れて行って貰えばいいのだ」

 言いつつ、男は娘の腕を掴む。
 咄嗟に振りほどこうとしたが、意外に男の力は強かった。
 軽く持っているだけに思えたのに、振りほどけない。

「そ、そんなところに何の用です。寺の倉など、すぐそこにあるではありませんか」

「ああ。そこにあんたを連れ込もうってわけさ」

 そっちか!
 娘は思わず心の中で叫び声を上げた。

 金をせびるほうなら、まだマシだ。
 持っている金を渡せば済む。

 だが男たちは端から娘目当てだったらしい。
 考えてみれば当たり前だ。
 このような小娘が持っている金など知れている。

「放せっ」

 良家の娘とも思えない言葉を吐き、娘は思い切り腕を掴んだ男の股間を蹴り上げた。

「!!!」

 男の手が離れ、その場に頽れる。
 だが今一人の男が、素早く娘を羽交い絞めにした。

「このアマっ……」

 股間を押さえて蹲っていた男が、血走った目を向ける。
 娘は一層身の危険を感じた。

 そのとき。
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