シンデレラは硝子の靴を
小走りに扉の前に立ち、まず、深呼吸。



コンコン、とノックをして、沙耶は中からの反応を待つ。




が。


うんともすんとも返事が返ってこない。




「ん?」




沙耶はもう一度、少し強めに扉を叩く。



しかし、自分以外の物音がしない。



「もーしもーし??!!聞こえてますー!?ノックしてますよー!!!」



最終的には、ガンガンとめいっぱい扉を叩きながら、呼びかけた。



それでも相変わらず何も聞こえてこないので。




「寝てんのー!?入りますよー!!!!」



一応断りの文句を混ぜて、沙耶は取っ手に手を掛けた。




「あ、れ?」



控え目に開いた扉の隙間から中を覗くと。




予想していた人物は、そこには居らず、間の抜けた声だけが響く。



偉そうなデスクは空っぽだった。




「何よー?いついなくなったのよー。」





言いながら、沙耶は遠慮なく扉を全開にして中に入った。



―つーか、坂月さん、絶対知ってたでしょ。ほんと使えないわね。



肝心なことを毎回伝えないのは、わざとなのだろうか。



憮然としながら、沙耶は部屋を見回した。



秘書室よりも更に広い社長室は、閉鎖的な空間だった。



大きな図書室のように、難しそうな本がみっちりと壁沿いの本棚に詰められている。


近代的ではなく、むしろアンティークの家具が多くあって、ここだけ隔離されている別世界のようだ。


窓もない。



「こんなところにいて、よく息詰まらないわねー」



感想が、思ったまま零れ出る。
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