シンデレラは硝子の靴を
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「うわ…」
時刻は16時。
都内有数の三ツ星ホテル、ミュールアンピエール、略してミュアンホテルを見上げ、沙耶は感歎の溜め息を吐いていた。
建物の正面から見ると、真ん中部分がざっくりとV字になっていて、その下に凹凸に切り取られた玄関がある。
上品に輝く照明がその中から計算し尽くされた角度で外側に漏れており、その前で降車する、明らかに富裕層の客が、続々と吸い込まれていく。
黒塗りの車が多く、ボーイ達が忙しそうに走り回っていた。
―場違い。
初めて来た場所に、沙耶は思わず自分の服装を振り返る。
上はロンTに薄手のカーデ。
下は七部のパンツ。
その上に秋物コートを羽織っている。
従業員は裏口から入る上、現場では着替える為、ラフで構わないと友達は確かに言っていた。
けれど、世間一般で言うラフと、自分のラフとはズレがあるのかもしれない。
―っていうか、他にないんだから、仕方ないし。
18時から始まるパーティーだから、本来は17時前にホテルに着けば良いのだが、何しろわからないことだらけなので、早目に来れば少し場に慣れることができるだろうと考えてきた。
―こんなとこ、今後一生足を踏み入れないし、慣れることも一生ないわね。
クスと、自分自身を笑って、沙耶は正面玄関に背を向け、裏口に回った。