【完】英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!
「遅くなってすいません」
自動ドアが開くと同時に、店に飛び込んできた女性。
彼女のおかげで、私が暗くしてしまった空気が一瞬で明るくなった。
「裏に回ろうかと思ったんですが、また幹太さんが女の子を怖がらせてるようだったので」
長い黒髪をパサリと後ろへ流すと、その人は私を頭の先から爪先まで値踏みするように見てくる。
猫みたいなちょっと鋭い大きな瞳に、高い鼻にキリリとした眉毛。
美人でスタイルも良くて、背も高いけど。あれ……。
「あの、鹿取美麗と申します。よろしくお願いします……」
「はい。よろしく。私は唯一の正社員の日高 桔梗。幹太の同級生だから苛められたら言ってね。あ、でも」
日高さんは、大きなお腹を擦ってはにかんだ。
「来月には産休に入っちゃうから、それまでビシバシ指導しちゃうからね」
(やっぱり……)
私みたいな役立たずが呼ばれたのはきっと日高さんの妊娠が理由なんだ。
きっと求人を募集しても来なくて。
そう思うと突然こんな場所で働けと言われたのも納得がいく。
でもなんで母は説明してくれなかったんだろうか。