【完】英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!

抱き締めた紙袋から、私が汚したはずのワンピースが飛び出す。

クリーニングされてビニールに入れられたまま。

一緒にまたメッセージカードが入っていた。きっと美鈴はこれを見たから慌てて私を待っていてくれたんだ。

『この服を見て時々は私を思い出して下さい』

擦りむいた足が痛い。

痛くて痛くて、ズキズキして胸が痛い。
自分で転けたのに。
忘れるって決めたのに。
会ってどうするつもりだったんだろう。
なんでデイビットさんは私に会いに来てくれたの?


服の為だけ?

『私が負けたら、その服も靴も返品します。でも 、私が勝ったならば、このプレゼントを受け取 ってくださいね』


雨の日の賭けで私が負けたから、届けてくれたの?

分からなくて、胸が痛かった。締め付けられる。
たった一晩で私の心も身体も掻っ攫われた。乱された。
――今も貴方の残り香を探してしまう。

たった一文だけなのに、その言葉で私は子供みたいに大声で泣いた。

いつ会いに来てくれるのかと毎日思わなくていい、もう時々思い出すだけでいいんですね。

嗚呼、貴方は私に泣く声もくれたのね。
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