恋愛温度差
「家まで送ります」

「それも課題ですか?」

「いえ。なんとなく。そのほうが良いと思ったので」

 店の外に出て一度足を止めると、君野くんが振り返った。

「なら、大丈夫です。家はうちの店の裏側なので。ここから歩いても10分はかからないし。君野くんのほうが帰るのに時間がかかるんじゃない?」

「いえ、俺は。一度、店に戻ってチャリに乗って帰るので」

「明日もお店があるんだし。ここで別れたほうがいいと思う」

「んじゃ、これで」

「今夜はご馳走様でした」

 私は再度、お礼を述べて頭をさげる。

「……いえ。こちらこそ、課題に付き合っていただき、ありがとうございます」

 君野くんはくるっと私に背を向けると、さくさくと歩き出した。

 私も、君野くんと反対方向へと歩き出す。

 実をいうと、こっちは家から遠くなるんだけど。

 君野くんが、家に帰るように歩きだしちゃったから。

 なんとくなく同じ方向に行きたくなくて。反対方向に歩きだしてしまった。

 それでもちょっと遠回りになるだけで、時間に大差はないと思う。

 私は黒崎さんから借りたコートのポケットに手を入れると、白い息を長く吐き出した。

 長い食事会だった。

 時間的に2時間ちょいだったんだけど。何を話したらいいのかわからなし、途中で面倒くさそうにされちゃったし。

 何か面白い話をしようと思えば思うほど、からまわりしている自分が悔しくて、悲しくて。

 すごく小さな人間に見えた。

 むしろ、沈黙でいいですから……とさらりと言えちゃう君野くんのほうが大きな人間に見えた。

「くやしいなあ。私、年上なのに」

 私は、空をあおぐとモヤモヤする胸をポンと叩いた。
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