恋愛温度差
「チーズケーキとチョコケーキを一つずつ」

 君野くんが午後2時にやってくると、迷わずに2つのケーキを頼んだ。

「お持ち帰りですか? 食べていきますか?」と、わたしはいつも通りに……いや、限りなく棒読みに近い状態で問いかけた。

「たべていきます。それと姫宮あかりさん、今夜あいてますか?」

「はいっ?」とわたしはまた声をあげて、脳停止しそうになった。

 瞼をぱちぱちとしてから、喉をならすと「課題ですか?」と脳みその片隅によぎった言葉を口にした。

「もちろんです」

『もちろん』なんだ。
 少しくらい否定してもいいのに。

 実は昨日の食事会が思ったより楽しかったので~、とか。
 もっとあかりさんを知りたいんです。とか。

 スマイルで、誘ってくるくらいすればいいのに。

 再度、君野くんの生真面目すぎる無表情を見てから、首を横に振った。

 無理だ。
 いまの彼にはそんなチャラ男的なことはできない。

 だって昨日の食事会が、楽しいわけないもん。
 至極つまらなそうな表情で、たんたんとわたしの片思い歴を聞かされてたんだから。

 課題でもなければ、次はあるとは思えない食事会だった。

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