恋愛温度差
 夜八時。
 わたしは黒崎さんのお店のドアをカランカランと音を鳴らしながら、押し開けた。

 閉店準備に入っていたスタッフたちがさっと笑顔でこちらに目をやり、一瞬でその笑顔が消え失せた。
 理由は簡単。
 わたしがお客ではなく、ライバル店の売り子である『姫宮 あかり』だったからだ。

「あ! あかりちゃん、待ってたよ。呼び出して悪かったね」と、店の奥から黒崎さんが出てきてくれる。

 両手を広げ、笑顔の黒崎さんがお店のホールに出てくる。
 
 わたしは目の端にうつる君野くんがかなり気になってしまう。
 今夜、課題クリアのための食事会を予定しているのに、閉店間際に黒崎さんに会いにわたしが会いにきたのだ。
 どう思ったのだろう、と不安になる。

 君野くんは、黒崎さんを見てから、わたしに目をやったのがわかる。

 わたしは手に握っているスマホを軽く持ち上げて、黒崎さんに会釈をおくった。

「あの……」
「話は事務所でしよう、あかりちゃん」

 黒崎さんは広げた手を、わたしの肩にぽんっとのせると、二階にある事務所へと案内された。

 ちらっと君野くんにわたしは振りかえると、彼はもうわたしに背を向けて作業を始めていた。

「メールにあったように、ワンピースにカーディガンできたんですけど」
「うん。ありがと。あかりちゃんには、話しておいたほうがいいと思ってね」

 事務所に入ると、黒崎さんがにっこりと笑って、ソファに座るようにうながしてくれる。

 わたしはすすめられた側のソファに座ると、目の前に腰を落とした黒崎さんに目をやった。

「ほら、旺志の課題について」
「ああ~。合格点ですか?」

 黒崎さんが「合格点ねえ」とつぶやくと、ぷっと噴き出した。

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