恋愛温度差
 10分くらい、黒崎さんと話をしてから、わたしは下におりていく。
 すでにオールの電気は薄暗くなっており、店内には誰もいなくなっていた。

 君野くん、帰っちゃったかな?

 ちゃんとした約束をしたわけじゃないといえば、そう思えるし。
 待ち合わせをしたわけでもないし。

 ただ今夜、課題クリアのために会いましょ、てきな感じだったから。

 わたしと黒崎さんが、事務所にいった時点で諦めて帰ってしまったのかもしれない。

 連絡先、聞いておけばよかったなあ。

 わたしは、ゆっくりとドアを開けると、ベンチに君野くんが座っているのが目にはいった。
 彼が普段、乗っていると思われる自転車が、ベンチに横づけされて停まっている。

 君野くんはベンチに座り、文庫本に目を落としていた。

「帰っちゃったかと思った」とわたしは思ったままを言葉にして、君野くんの前に立った。
「あと5分待ってこなかったら、帰ろうと思ってました」

 君野くんが、文庫本を閉じてから立ち上がった。

「黒崎さんは?」
「まだ仕事が残ってるって。当分は降りてこなさそうだったよ」
「そうですか」

 君野くんが手に持っている本を、自転車のかごにそっと入れた。

「今夜は、どこにいきますか?」

『オンナ』を意識したら……、見方がかわる???
 わたしは「オンナ」として見られていない。

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