恋愛温度差
「そんなに落ち込むこともないんじゃないですか?」
「え?」
 対面に座った君野くんは、缶酎ハイのプルドックを引き上げながら、さらりと口にする。

「黒崎オーナーですよ」
「女として見られてないってわかったのに。笑顔でいられるわけないじゃない」
「それは今日まででしょ? 今度からはワンピースで会えば、『オンナ』として見てもらえるってわかったんだから。良かったじゃないですか」
「ワンピースなんて持ってないもん」
「今、着てますよね?」
「これは……茂美さんの」

 わたしが顔をあげると、君野くんが目を丸くして、プッと噴き出すところだった。

「通りで……」
「似合ってないって言いたいんでしょ! わかってるわよ。いつもTシャツジーパンの枯れオンナですから」
「Tシャツジーパンでも色っぽく着こなす方法はありますよ。そうですねえ……黒崎オーナー好みで言えば、白シャツに濃い色の下着をつけたら喜ぶと思いますよ」
「えっ……? それって」
「透けて見えるのがいいんですよ」

 君野くんがニヤッと笑ってから、缶酎ハイをごくりと飲んだ。

「馬鹿じゃないの!?」とわたしは言って、後ろにあった君野くんのベッド枕を掴んで投げつけた。

 缶酎ハイをテーブルに置いた君野くんは、枕を手に取ると、わたしに向かって飛ばした。

「ちょっ……」
 なんで投げるのよ!と、文句を言おうとして、ハッと息をのんだ。
 枕を受け取り、顔をあげたときにはもう、君野くんがわたしの眼前にまで近づいていたから。
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