恋愛温度差
「あの……わたしはこの状況をどのように受け止めたら……」

 ベッドから出て、黒のランニングシャツを頭からかぶっている君野くんに、恐る恐る声をかけた。

 シャツから頭がでた君野くんは、わたしに振り返ってクスリと小さく笑う。

「どのように受け止めたい?」
「わからないから聞いてるのっ! わたしは君野くんの恋人? それとも課題クリアのためにしただけのこと? ただの遊び? 社交辞令?」
「『社交辞令』ってなに?」
 
 君野くんが首をかしげてから、ベッドに腰かける。
 
「ほら、よくあるやつ。合コンの終わりに男が女にメアドを聞くのは当たり前!みたいなルール。オトコの家にあがったら、一応オンナに手を出しておかないと失礼!みたいな……対応?」

「俺、昨日の夜、あかりに何て言ったか覚えてる?」

君野くんに『あかり』と呼ばれるのには、ちょっと違和感が……。
お尻のあたりがムズムズとこそばゆい気がしてならない。

「覚えてるけど……」
「『けど』?」
「……覚えてます」
「なら?」

『ん?』と片眉をあげて、君野くんがわたしの前髪をいじりはじめた。

「君野くんはズルい」とわたしはぼそっと呟くと、布団を頭からかぶった。

「ズルいのはあかりのほうだろ。俺のモノにするって言ってるのに……。『社交辞令』で抱いたって言おうとしてさ」
「別にそういう場合もあるかもしれないっていう事案を一つあげただけでしょ。冷静になったら、なんであんなことをしたんだ? ってなるかもしれないし」
「そう思うのはあかりだけだ。俺は場の流れで女を抱くような人間じゃない。後悔はしない。でも、あかりは違う。本来、好きなのは俺じゃなくて、黒崎オーナーだろ。あとで後悔の念に苛まれるのはあかりだ」

「あ……たしかに」とわたしは同意して、布団から顔をだした。

「俺は全力で奪う。でも無理強いはしない……たぶん」
「え?『たぶん』って……」

 聞き返そうとするなり、口をふさがれる。

 甘くとろけるようなキスが、君野くんから与えられるなり、わたしは昨晩のことを思い出して体が熱くなった。

「おいしいデザートを知ってしまった今、我慢は出来ないよ」

 軽く微笑んだ君野くんの甘いボイスが、耳元で囁かれた。

 ズルい……。無理強いじゃないけど、これじゃ、抵抗できないじゃない。
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