恋愛温度差
 不思議だ。

 からかっているのだろうか。面白がっているのだろうか?

「用意できたぞ」とお兄ちゃんが、白い皿の上に注文のケーキを二個のせて、可愛くデコレーションした君野くんの昼食を差し出した。

「はい、どうも」と私がトレイの上に置くと、父親がスッと無言で淹れたての紅茶ものせた。

 ほんわりと甘酸っぱい匂いが紅茶から香ってくる。なんて安らぐ匂いなのだろうか。

 私は鼻孔いっぱいに紅茶の匂いを吸いこんでから、窓際のテーブルに座っている君野くんのもとへと向かった。

「ご注文のケーキです。あとオーナーからサービスの紅茶です。どうぞ、ごゆっくり」

 私はテーブルの上に静かに皿と紅茶を置くと、一礼した。

 君野くんの視線がケーキに向く。

 無表情だった君野くんの口元がほんの少しだけ動いたような気がした。

「課題だったんです」

 君野くんの顔が私に向くと、口が動いた。

 かだい!?

 一体、なんの話し?

 ここにきて、ケーキを食べるのが課題だったのか?

「ライバル店でケーキを食べるのが……ですか?」

「いえ。姫宮さんを誘うのが、です」

 ますます理由がわからなくなる。

「ソレって、課題ではなくて罰ゲームというのでは!?」

「違います。課題です。黒崎オーナーからの課題で、全従業員に出されたんです」

「はい? 私は全従業員から誘われるわけですか?」

「違います。姫宮さんを誘うのはおそらく俺だけかと思います」

 意味がわからない。

 君野くんの言わんとしていることが理解できなんだけど。
< 4 / 57 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop