恋愛温度差
「靴を……君野くんが買ってくれたんです」と言い、わたしは下を向く。

 今履いている靴を、黒崎さんに見えるように足先を出した。

「昨日の靴擦れを知っていたので、心配してくれたんです。それで靴代を聞いたんですけど、教えてくれなくて」
「払いにくるついでに、夕食を一緒にってこと?」
「そんな感じです」

 靴代、払わせてくれなさそうだけど。

「意外な展開だな」と黒崎さんが呟き、わたしの頭をなでた。

「旺志の仕事が終わるまで、ここで待っているといいよ。外は寒いから」
 黒崎さんがにこっと笑うと、店の奥へと入っていった。


「暖房を切ると寒いね」と仕事を終えて、店の入り口にある待ち合い用の椅子に座っていたわたしのもとに、君野くんがやってきた。

 首に巻いてあるグレーのマフラーをとると、君野くんがわたしの首に巻き付けてくれる。

「だ……大丈夫だよ。そんなに寒くない」
 君野くんのぬくもりが残っているマフラーを巻いてもらって、わたしはド緊張で心拍数が跳ね上がった。

 未経験だ。
 男の人のぬくもりが残っているマフラーを巻いてもらえるなんて。
 ドキドキがとまらない。

 しかも君野くんのようなイケメンにやってもらえるなんて。
 夢の中にいるみたい。

「鼻の頭が赤くなってる」と、君野くんがわたしの鼻先をつまんだ。
「ん、いたっ」
 
 たぶん、赤くなっているのは鼻だけじゃないはず。
 顔面ゆでだこ状態になっている。
 足先や手先は冷たいのに、顔だけ火を噴くように熱いよ。

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