私に恋をしてください!
☆25年目の雪解け~side HAZUKI~
土曜日。
ソラが今夜、うちに来る。

でもお母さんには存在を知らせていない。
ギリギリまで言わずに心の準備をあえてさせないことも今回の作戦らしい。

『お父さんが人を連れてくるなんて、何年振りかしらねぇ』
「昔はよく呼んでたよね、同じ編集部の部下とか」
『編集の仕事から離れてからは来てないわよね。かれこれ10年は経つかしら』

お母さんの手伝いで、私もキッチンに立つ。

『でも人を呼ぶのも大体はお昼ご飯なのよ。今日みたいに晩御飯なのは初めてかも』

ローストビーフを切りながら、お母さんは言う。

「お父さんは?」
『酒屋に行った。今日来るお客さんと飲みたいんだって』
「あ、そう・・・」

ソラってそんなに飲むイメージないんだけど、大丈夫なのかなぁ。
そして、

『ただいま』

お父さんが帰ってきた。

「何を買って来たの?」
『白ワイン。今日来る人が好きなんだと』

知らなかった。
私よりお父さんの方がソラのことを知っている事実にちょっと嫉妬。

『今日はお肉料理が多いから、赤ワインの方が良かったんじゃない?』
『赤は美味しいけど苦手なんだってさ。だから大丈夫だろ』

いつになく穏やかな会話を交わしているように思ったのは私だけだろうか。
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