私に恋をしてください!
どう考えても平日は難しかった。
会社内で発生したこととはいえ、やったことは本当に自分の不注意だ。
かと言って、休日の貴重な時間を俺のために使って貰う訳にもいかない。

「このスーツは、おいくらでしたか?」
『え?いや、その・・・』

グレーのスーツは、タグを見るとブランドものだ。
それでも、時間よりもお金で解決する方が得策だと考えた。

彼女はまだ新入社員で、親に買ってもらった大事なスーツだろうから、かなりの金額を俺は覚悟した。
ところが・・・

『お金、いりません。代わりのスーツも、いりません』

彼女の特徴であろう、甘ったるい声でそう言われた。

『ただ、私に"仮がある"と感じるのなら、ひとつ私のお願いを聞いてください』
「僕に出来ることだったら」

全く、欲のない人だ。
普通なら、慰謝料なり何なりふんだくる場面だと思うけどな。

すると、彼女は鞄から大きなノートを出してきた。
そしてそれを黙って俺に差し出した。

「これって・・・」
『中を見てください』

彼女に言われるがまま、ノートをめくると、そこには・・・

「少女マンガ?」
『はい。私の夢です』

読み進めるけど、俺は少女マンガを見たことがなくて、その良さが分からない。

「絵、上手いですね」

その程度しか感想が言えなかった。
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