私に恋をしてください!
俺は初めてきちんと絵画観賞をしているのに、美大卒で美術館に行き慣れているはずの葉月と全く同じ感覚である自分に、少し驚いていた。

何十もの絵画が展示されているのに、一番綺麗だと思う絵は葉月と同じもの。

昨日、花村さんが言っていた"価値観の一致"という言葉が頭に浮かぶ。
綺麗だと思うものが同じということなのか。

"夜空に浮かぶ光"を見つめている葉月の横顔を見ると、そこには子供っぽい顔つきではない、凛とした年相応の表情だった。

思えばうちの会社で初めて見かけた3週間前だって、そこいらの女性と変わらない普通の子。

なのに彼女は子供っぽいと自分を卑下し、男性との関わりもなかった。

一方、俺は神戸とあんなことになった高校3年生の時から4年半、特定の"彼女"と呼べる女性は作っていない。

本気の恋愛をして、嫌われることがとても怖くなってしまったから。

好きになった女性と、例えば体の関係になるような場面の時、あの時をどうしても思い出してしまうだろうと臆病になっていた。

でも俺は今年24になった健康な男。
本気にはならない"体だけ"の関係なら、いくつも経験した。

ことが終わった後も、神戸の時のような罪悪感はない。
なぜならその女性のことは、何とも思っていないのだから。
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