玲汰、知ってる?

蒸し暑い空気が俺の肺にゆっくりと入る。

学校でも変わらない日常の景色が広がっていて、みんな教科書でパタパタと扇ぎながら気だるい顔で授業を受けていた。


俺は黒板の文字をノートに写しながら、視線は前ではなくセミが鳴いている窓の外。

そういえばあいつも3組では窓際の席だった気がする。滅多に他クラスには行かないけど、莉緒がどんな風に授業を受けているのか俺は知らない。

背筋をピンッと伸ばしてノートを書いている姿が目に浮かぶけど、きっとその中でこうしてぼんやりと空を漂う雲を見つめている時もあったはず。

あいつは、なにを考えていたんだろう。


病気になって、誰にも打ち明けずに気丈に振る舞って。

なんでそんなにお前は強いの?

なんでそんなに強がるの?


――『だから心配するなよ』

あの言葉がずっと耳に響いてる。

心配してねーよ。
心配させないようにしてるんだろ。


心配させろよ、少しぐらい。
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