狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

Ⅹ―ⅴ 精霊王


「……」

おおよその見当がついていたテトラは黙ってブラストの言葉を聞いている。話についていけないカイは”?”と首を傾げて皆の顔を見比べている―――



――――


風の精霊よりも遥か前を移動するのは光の精霊だ。
彼女は精霊王にとても忠実で、人間に対して危害を加えたことは一度もない。

どこまでも続く巨大な樹木の森を抜け、黄金の大地をさらに奥へと進む。そしていくつかの清らかな小川を超えると…やがて見えてきたのは大きな木々に囲まれた精霊王の住まう壮大な神殿だった。

光の精霊が神殿に近づくが彼女が探している王の気配は感じられず、風が木の葉を揺らす音が聞こえてくるだけだ。


『…』


しばらく考えた様子の光の精霊は、思い出したようにさらに奥にある湖のほとりを目指した。

精霊の国は建造物のようなものがほとんどない。あるのは王の神殿くらいで、ここでは大自然がありのままの姿を保ち…それらに宿った精霊たちが思いのままに日々を過ごしていた。

光に反射した湖面を揺らすのは樹齢数千年と言われている、ひときわ大な樹木から落ちるのいくつもの葉たちだった。

そして…



光の精霊が見上げると…金の長い髪を風に揺らし、遠くを見つめる精霊王の姿があった…


『…王』



彼女の小さな言葉に気が付いた枝の上の青年は、物憂い気な表情でゆっくりと…振り向いた―――




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