狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

Ⅺ―ⅶ ヴァンパイアの王



ふわりと城の屋根から舞うように降りてきたのは紛れもなくこの国を統べるヴァンパイアの王の彼だった。


「王っ!!探しましたよ!ちゃんと行先は長老に伝えてください!とあれほど…」


門番の怒りにも動じない彼はツーンとそっぽを向いている。きっと彼はそのようなお小言を今まで何度も言われてきたのだろう。聞き飽きたとばかりのその表情はまだ少年のあどけさをどこかに残したような…二十歳前後の容姿を保っていた。


ガミガミとうるさい門番のお小言が終わると、やっと目を開いて視線をうつした彼は口を開いた。


「で、何の用だ」


鮮やかな血の色を宿したような瞳がスッと細められ門番の彼を威圧する。即位して二百年足らずのこの若き王は、長寿で知られるヴァンパイアの中でも若い分類に含まれる。そのため幼い時から彼を知る者は、息子のように…中には孫のように見ている者たちがいる。

なので自然とお小言や説教をよくされることがあり、昔からのその微笑ましい関係は彼が王となってから今まで、二百年以上何も変わっていない。

しかしそれは、彼がなめられているわけではなく愛されているからこそのものだった。口ではとやかく言いながらも皆、彼を尊敬し敬っている。だからこそ彼の命令は絶対であり、反論するものたちは誰もいない。


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