狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
ⅩⅣ―ⅴ 精霊王の返事
踵を返し歩くキュリオは庭園を出て、陽射しの降り注ぐ明るい廊下を抜ける。胸にはわずかな期待と・・・あるはずもない可能性と願望が渦巻いている。実態のない彼らが人と交わり子を成すことなど出来るわけがなく、大自然から生まれ出るその存在はこの世界で唯一・・・精霊の国の者だけがもつ生態系だった。
(精霊と人の間の子など・・・)
キュリオは雲ひとつない真っ青な空を見上げ、小さく息をついた。
「恐らく精霊の国からの返事は決まっているだろう・・・そしてアオイはヴァンパイアでもない。本命は雷の国か死の国か・・・」
独り言のようにつぶやきながら広間へと続く通路を歩いていると・・・あたりを包む光の粒子が濃くなった事に気が付く。そして角を曲がったところで淡い光を身に纏った精霊王の使いである<光の精霊>の姿が視界に入った。
「待たせたね」
キュリオが<光の精霊>の背に向かって声をかけると、無表情の知的な印象を持つ彼女がゆっくり振り返った。そして悠久の王の姿を確認すると流れるように近づき、目の前で深く一礼する。
『…お久しぶりでございます悠久の王…こちらを』
挨拶もそこそこに彼女は真っ白な腕を伸ばし精霊王より託された一通の手紙をキュリオへ差し出した。
「…ありがとう」
わかりきった返事を目にするのだと理解しているが、一瞬キュリオの顔に緊張の色が走る。
『……』
そのわずかな表情の変化を光の精霊は見逃さず、いつも冷静な悠久の王の心を揺らすほどこの件が重要な何かだという事はすぐにわかった。
手紙を受け取ったキュリオはすぐさま中身を確認し、真っ白な書面に目を通す。そして予想通りの言葉を見つけると、無言のまま目を閉じてしまった。
『…ご期待に副えず…』
落胆したような彼の様子を見て<光の精霊>が言葉をそえると、キュリオは小さく首を横に振った。
「すまない、君に気を遣わせてしまったね…彼にも礼を言っておいておくれ」
『…御意…』
それ以上は語らず、詮索もせず光の精霊は一礼すると来た通路を静かに戻っていく。
そしてその背を見送っているキュリオは小さく呟いた。
「あと二ヶ国…」