狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
ⅩⅣ―ⅹ 例えヴァンパイアだとしても…
「…?」
不思議そうに顔を覗きこむアオイを腕に抱いたままキュリオは城内へと足を踏み入れ、追いかけてくる侍女たちがその速度について行けぬほど足早に階段を上がっていく。
まったく呼吸を乱していない彼はそのまま執務室の扉まで歩いて行くと、先程までそこにいたであろうヴァンパイアの王の姿を想像し、怒りにも似た感情で重厚な扉を押しのけて室内へと入る。
「……」
キュリオは開いた窓から乱れ揺れているカーテンを片手で直すと、白い机の上に置かれた黒い羽が視界に飛び込んできた。
さらに近づき、一枚の紙を手に取ると"該当者なし"の文字を見つめる。
「…彼女がヴァンパイアではない事はとっくにわかっていた」
キュリオは忌々しそうに顔を歪め、ぐしゃりとその紙を握りつぶし更に呟いた。
「もしそうだったとしても…貴様になど絶対に渡しはしない…っ!!」
普段の優しいキュリオからは想像も出来ぬほどゾクリとするような声色だ。すると胸元に抱かれている幼い少女は不安そうに眉をひそめ…ひとり悲し気にその瞳を揺らすのだった―――