狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

ⅩⅦ―ⅴ ヴァンパイアの王の憂鬱Ⅰ



―――カツンカツン…


巨大な月に照らされた古城を歩くのは、この国で唯一…紅の瞳を持つヴァンパイアの王・ティーダだった。一族は皆、妖艶でほとんどが若々しい姿を保っているがこうしていられるのも、生命の力に満ち溢れた人の生血を糧としているからだと言われている。


そして主に狙われるのは…力の持たない悠久の民たちだった。他の国には武器を持ち、戦いに慣れた者がいる。雷の国の民などがよい例だろう。ヴァンパイアはこの世界が創生された遥か昔…人間を捕食していたことがあり、犠牲になった民たちを抱えた当時の悠久の王が激昂したことはいうまでもない。しかし、当時のヴァンパイアの王は第一位の実力を誇っており、悠久の王が苦戦したという言い伝えが残っていた。


ティーダは見晴(みはらし)のよい塔のテラスにもたれかかる。冷たく流れる風が彼の艶やかな髪を揺らし、古城の空気を巻き上げてまた空へと帰っていく。何も面白みのない景色と空。この国はいつでも黒、赤…そして不気味なほどに巨大な月の光りのみが交差しており、悠久のように色鮮やかな風景はどこにもなかった。



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