狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

ⅩⅦ―ⅵ ヴァンパイアの王の憂鬱Ⅱ



かつての比較的温和なヴァンパイアの王たちが花を育てようと試みたが、太陽の光など届かぬこの国でそれを叶えることはやはり無理だった。初めて悠久の地に足をつけ、吸血行為を行おうとした若いヴァンパイアが己の国との違いに衝撃を受けたのはいうまでもない。日の光が苦手とする彼らは、悠久の日が暮れてから行動にでるが…それでもあの国の鮮やかさや風の匂いはいつでもあたたかく、甘い香りがするのだ。


恵まれた豊かな大地と、偉大な王に守られた民たちの生血は極上だった。いらぬ衝突を避けるためにも捕食こそしなくなったが、今でさえ行き過ぎた吸血行為により悠久の民を殺してしまう未熟なヴァンパイアもいる。それに対し、キュリオが激怒するのはわかる。しかし…悠久の民とて動物の血や肉を食らい生きていることには変わりない。人はダメで動物がよいとされる道理は一体何なのだろうか。


「世の中ってのは理不尽なもんなんだな…」


空を見上げ、ひとり呟いた彼の声に答えはない。自分の代で何かが変わるとは思えないが、なにせ敵が多い。現時点で少なくとも、悠久の王と精霊王は彼を嫌っているはずだからである。


「キュリオの子供なのか…?あのガキ。またうるさそうなのが増えるのはごめんだぜ」


思い出すのは優しい雰囲気に包まれた、穢(けが)れの知らぬ純粋無垢な赤子の瞳。その赤子が将来キュリオの様になるかと思うとため息が出そうなティーダだった―――


< 194 / 871 >

この作品をシェア

pagetop