狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

ⅩⅩⅨ―ⅴ 異物Ⅴ



テラスのガラス扉が閉まり、ウィスタリアはそのまま広間を抜けた。一度だけ来たことのあるこの城の手洗い場を彼女は今でも忘れていない。王の住まう城で記念祭が執り行われることもあり、両親亡きあと…長女であるウィスタリアが代わりに出席した時の記憶だ。


民に解放されている手洗い場は王はもちろん、城仕えの者たちが利用する場とも異なっており…ありふれたものをイメージしていたウィスタリアは、花の園に飛び込んだかのようなその美しさに衝撃を受けたのだった。




―――きっと誰もが夢見る。
"こんな素敵なお城のお姫様になりたい"
そして…隣で微笑んでいる王子様は―――




―――キュリオ様―――





"…姫様がまったく食事を口にしてくださらなくて…"



"ふふっ、そろそろ限界かな?いい加減顔を見せてあげないと可哀想だね"




…ふらふらと力なく歩くウィスタリアはテラスでのキュリオと女官のやりとりが頭から離れない。だが、楽しそうに会話していた二人に嫉妬したわけではなく…彼らの話の中に登場した"姫"の存在に…気が狂いそうなほどの深い憎悪の念が沸き上がり…彼女を支配していた…。




(…私から…キュリオ様を奪うのは…だ、れ…?)




妖しい光を瞳に宿したウィスタリアは、手洗い場のある一階への階段を降りる事はせず…二階の通路をどこまでも進んでいく。



―――しかしウィスタリアはただ宛てもなく歩みを進めているわけではない。彼女は探していたのだ。この城に住まう…憎き"姫"の姿を―――…




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