狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】

XXXⅧ―ⅹ 新しい命の誕生


中庭でひとり、あの花により近い色を出そうとグラデーションがかった水晶を砕いては求める色を追うダルドの姿がある。


「アオイ姫に似合うように…もう少し淡い色がいい…」


先程までは花の色に近づけようと懸命に水晶を研いでいた彼だが、いつのまにか贈られる少女を思い浮かべながら作業に夢中になっていた―――


と、すると…



―――キィィィン…―――



人がやっとのことで聞き取れる高音域の金属が奏でる美しい音色が響いた。


「これは…カイの剣かな」


膝で大人しく座っているアオイの指先に己の手を這わせていたキュリオが窓を眺めながら呟いた。


「…?」


瞬きしながらキュリオを見上げたアオイは、聞こえてくる音を探してキョロキョロと辺りを見回している。


「…あの見習い剣士の剣が完成した。…さすがに初心者向けのものは早い」


ダルドは大した喜びを見せることなく作りかけの髪飾りを柔らかい布で包むと、それを大事そうにバッグにしまう。


中庭を出て、城へと続く扉に向かうと…そこにはすでにキュリオが立っていた。


「彼の剣が出来たんだね」


「うん。いつ渡す?」


「明日の朝だよ。ダルド、是非君にも立ち会って欲しい」


「…わかった。先に生れ出たばかりの剣、磨いてやらないと…小川に行ってくる」


新しい命を得た魔導書は産声をあげるかのように光輝き続け、まるで鼓動を打つようにその光には強弱がある。


言うが早いが、ダルドは魔導書を抱いたままあっというまに森のほうへ駆けて行ってしまった。

彼が人として過ごすようになってからというもの不便で仕方のなかったその手足はすぐにダルドのいうことを聞くようになり、急速に馴染んでいった。


ダルドの手先は洗練されたどの鍛冶屋(スィデラス)よりも極めて優秀で、今となっては彼の右に出る者はいないくらいだ。
そして魔導書を扱えるとなれば…その可能性は無限大となる。まだ成長過程にある彼を見守るのはキュリオの楽しみとも言えた。


「ふふっ、アオイの魔具はどんなものなんだろう」


(きっと…美しく清らかな杖(ロッド)に違いない)


心躍るキュリオはアオイを日の光にかざすように持ち上げる。すると溢れんばかりの彼女の微笑みが心地良く降ってきた。


「きゃぁっ」


下に見える美しい王の顔に触れようと、幼い手がパタパタと目の前を掠める。



「私は本当にお前が可愛い…その小さな手はまるで花と戯れる紋白蝶(モンシロチョウ)のようだ」



「ん…?花の次は蝶の髪飾りを作ってもらうのも良いかもしれないな…」



と、彼女に贈るもので真剣に悩んでいるキュリオの姿はこれから先もよく目撃されるのであった―――



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