狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
✿ショートストーリー☆アオイの適職?そのLXXXⅦ
「…どう、して…?」
傷ついた表情を向けるアオイ。彼女にとって世界で最も頼もしく、誰よりも強いキュリオ。いままで大抵の我儘(わがまま)は受け入れてくれた彼が、ここ一番の願いを聞き入れてくれない。
ポロポロと零れ落ちるアオイの涙が頬を伝って床に落ちた。
「アオイさん、お気持ち有難くちょうだいします。しかし…先程も申し上げましたが、彼では無理です」
「…っどうして簡単に諦めてしまうんです!?やってみないと…わからないじゃないですかっ!!」
「アオイさん…」
わずかな憤りにセンスイを振り返ったアオイが次に見たものは…
視界の隅ではじけるキュリオの光。これは…茶室で見たあの時の力と同じものだと頭で理解するまで一瞬だった。しかし…アオイの体は反応出来ずにいる。
「…私に術は効かないと申し上げたはずです」
キュリオを見上げ、隣りに立ったセンスイの声が耳に響いたが…アオイの意識はどんどん重く、かすんでいく。
「…貴様ではない」
ハッとこちらを振り向いたセンスイの顔が光に埋もれ、徐々にあたりの声が遠くなっていく。そこでアオイは自分がキュリオの術にかかっているのだとようやく理解し始めた。
「狙いは…彼女ですか」
「おやすみアオイ」
「……そんな、おとう…さま…セン、スイ先生……」
(いや……)
(…お願い…夢なら、覚…めて…)
崩れゆくアオイの体を支えるセンスイ。
そして悲しみの色を浮かべたまま意識が途絶えた彼女の目尻に光る涙…。センスイは指先でそれを拭いながら呟いた。
「アオイさん…泣かせてばかりですみません。貴方に出会えて、本当に良かった…」
まるで今生の別れとなるようなセンスイの感謝の言葉。彼女のぬくもりを忘れぬよう、両腕でその体を強く抱きしめる。
「別れの挨拶は済んだか?」
真剣を掲げ、夜空を貫くキュリオのオーラが激しく燃え盛る。
そして背後のベッドへとアオイの体を横たえたセンスイが再びキュリオの前へと姿を現した。
「…私はそう簡単に死ぬわけには行かないのです」
低い声で呟いたセンスイはキュリオを見上げ、拳を強く握りしめた。
すると…
突然視界がぐにゃりと歪み…夜空が溶けるようにその姿を暗転させていく。
「…これは…」
「…ッアオイ!!」
「アオイさんっ!!」
やがて学園までもが崩れはじめ、アオイの元に向かった二人が目にしたのは…
「君たちおもしろい夢を見てるよねぇ…ここには三人、いや四人の夢が複雑に入り組んでいる…」
「お前は…」
驚いたキュリオの視線の先には巨大な鎌を持ち、アオイの傍らに座っている五大国・第三位、冥王マダラの姿だった―――。