狂気の王と永遠の愛(接吻)を 【第一部 センスイ編収録版】
✿ショートストーリー☆キュリオの願望?そのⅩⅩⅩⅠ
「…刺(とげ)に慣れてないお前を貫くのはこの俺だ」
「…っ…」
"お父様が刺(とげ)のないピンクの薔薇なら、お兄さんは刺(とげ)のある赤い薔薇かなって…"
"あぁ、悪くない表現だな。
まだ刺(とげ)に慣れてないお前を貫くのはこの俺だ"
脳裏をよぎる懐かしい声。
「ティーダ様…もしかして…あの時の…」
「……」
そこまで言いかけたアオイだが、ティーダはそれを静止するように馬の手綱を勢いよく引いた。
「…悪いな。これ以上行くとキュリオに気づかれる」
わずかに高ぶった気持ちを抑えつけようとしたティーダ。だが、アオイを腕に抱いた状態でそれすらもままならない彼はそれ以上城に近づくことを断念したのだった。
「…あ…ごめんなさい。つい…」
"キュリオ"という名前に冷静さを取り戻したアオイ。そしてその体を抱き上げたまま馬をおりたティーダ。
「悪かった。お前は主の元へ帰れ…ありがとな」
栗毛の馬の顔をひと撫ですると、ブルル…と低く鳴いた馬は元来た道を颯爽と駆け抜けていく。
(…ティーダ様…)
あまりにも自然な彼の仕草にヴァンパイアと言えど、悠久の民と何も変わらないのだとアオイはつくづく思った。
(彼らにとってはお茶とかよりも…人の血肉のほうが…)
実習中の会話を思い出したアオイは意を決し、拳を握り締め、とんでもないことを口にしてしまう。
「あ、あの…っティーダ様!もしよければ私の血を…」
「……」
すると…無言のまま振り返ったティーダ。
「アオイ…その言葉に偽りはないな?」
「…は、はいっ!」
緊張に背筋を伸ばしたアオイは"いつでも来い!"とばかりにきつく瞳を閉じた。
「俺がお前の血をいただくとき…お前には俺の血を飲んでもらうぞ」
柔らかいものがアオイの額に触れ、やがて離れていく。
「私が…ティーダ様の血を?」
「…あぁ。俺が迎えに行くまで…いい子で待ってろよ?」
「あ…」
くしゃりと頭を撫でられ、今度こそ姿を消してしまったティーダ。
(どういう意味だろう…私がティーダ様の血を飲むって…)
知識のないアオイは知らない。
それこそがヴァンパイアの王の伴侶となる者が為すべきだという事を―――。